「アカデミックハラスメント(アカハラ)」という言葉は、最近耳にするようになったという方も少なくないでしょう。
近年、セクハラ・パワハラをはじめとする多種多様なハラスメント行為が社会問題化しています。
アカデミックハラスメント(アカハラ)は、大学・大学院などの研究・教育機関において発生するハラスメント行為として、最近よりいっそうの注目を集めています。
アカデミックハラスメント(アカハラ)は比較的新しい概念であるため、厳密に理解することはなかなか難しい側面があります。
そこでこの記事では、アカデミックハラスメント(アカハラ)が意味するところや、その具体例などについて詳しく解説します。
アカデミックハラスメント(アカハラ)とは?
アカデミックハラスメント(アカハラ)の定義
アカデミックハラスメント(アカハラ)という言葉は、法律上定義された用語ではなく、今のところは厳密な定義が存在しているわけではありません。
しかし、一般的にアカデミックハラスメント(アカハラ)と呼ばれる現象が大学などで発生していることは、各大学が問題として十分認識していることが窺われます。
そして、各大学はアカデミックハラスメント(アカハラ)を独自に定義し、それぞれの学内におけるアカハラ防止の取り組みを行っています。
たとえば、東京大学が平成18年に発出した「東京大学アカデミックハラスメント防止宣言」によれば、アカデミックハラスメントは以下のように定義されています。
「アカデミックハラスメントとは、大学の構成員が、教育・研究上の権力を濫用し、他の構成員に対して不適切で不当な言動を行うことにより、その者に、修学・教育・研究ないし職務遂行上の不利益を与え、あるいはその修学・教育・研究ないし職務遂行に差し支えるような精神的・身体的損害を与えることを内容とする人格権侵害をいう。」
(出典:「東京大学アカデミックハラスメント防止宣言」(東京大学役員会))
上記をかみ砕いていうと、アカデミックハラスメント(アカハラ)とは、
「大学の構成員同士の間にある力関係の差を悪用して、大学における学び・教育・研究などを妨害する行為」
であるということができるでしょう。
アカデミックハラスメント(アカハラ)が問題となる関係性とは?
実際にアカデミックハラスメント(アカハラ)が問題となる関係性の具体例を紹介します。
①教員と学生
アカデミックハラスメント(アカハラ)は、典型的には教員と学生の関係性において問題となります。
大学の学部授業の段階では、教員は学生に対して単位を認定するかどうかを決定する「権力」を握っています。
そのため、単位の認定をエサにして、セクハラやパワハラまがいの行為が行われるケースも、残念ながら見受けられます。
また、学部後期や大学院の段階では、学生が教員の研究室に配属されることがあります。
学生が研究室に配属されると、教員と学生の関係性は、さながら会社における上司と部下のような関係性へと変化していきます。
この場合、教員から学生に対して大量の雑務を押し付けたり、自分の意見を取り入れなければ全く研究指導をしないと脅したりするなど、指導担当教員としての立場を悪用したアカハラ行為もしばしば行われているようです。
②教員同士
さらに、教員と学生の関係性に限らず、教員同士の関係性においても、アカデミックハラスメント(アカハラ)が問題となるケースがあります。
たとえば、教授・准教授・助教などの役職によって、教員同士の間でも序列が存在します。
また、研究実績が豊富な教員に対しては、周囲も何となく従わなければならないという雰囲気を感じている場合が多いでしょう。
こうした教員間に存在する明示・黙示のパワーバランスを悪用して、上位の教員が下位の教員に対してアカハラ行為を働くことも考えられます。
アカデミックハラスメント(アカハラ)が横行する理由とは?
アカデミックハラスメント(アカハラ)が横行する背景にある理由は、ケースバイケースでさまざまです。
しかし一般論としては、大学・大学院の「閉鎖性」が理由の一つとして挙げられるでしょう。
そもそも大学・大学院は、学問の自由・教育の自由に寄与する研究・教育機関として、憲法上自主性(自治)が認められた機関です。
他方で、大学・大学院は自主性の高い機関であるがゆえに、外部からのモニタリングが利きづらい閉じられたコミュニティであるという側面も持っています。
こうしたネガティブな側面が悪い方向に作用すると、社会常識から逸脱したハラスメント行為が発生しやすい環境が作り出されてしまいます。
そうなると、加害者側は何の抵抗感もなく平然と加害行為を行い、一方で被害者側もSOSの声を上げづらいという悪循環に陥ってしまうでしょう。
こうした大学・大学院の閉鎖性を正しく認識した上で、適切に外部の目を入れてチェックを行い、アカデミックハラスメント(アカハラ)を防止することが大切です。
アカデミックハラスメント(アカハラ)の具体例とは?
アカデミックハラスメント(アカハラ)には、実にさまざまなパターンが存在します。
アカデミックハラスメント(アカハラ)の撲滅に取り組んでいる特定非営利活動法人「アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)」は、アカデミックハラスメント(アカハラ)を11パターンの行為類型に分類しています。
(参考:特定非営利活動法人「アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)」HP)
以下では、NAAHによる分類に沿って、アカデミックハラスメント(アカハラ)に該当する行為の具体例を解説します。
学習・研究活動への妨害
大学や大学院における、正当な学習・研究活動を妨害する行為です。
<学習・研究活動への妨害の具体例>
・図書や備品などを正当な理由なく使わせない
・研究に必要な物品の購入を正当な理由なく認めない
・研究室への出入りを妨害、禁止する
・学会などへの参加を正当な理由なく許可しない
卒業・進級妨害
教員が学生に対して、進級・卒業・修了を認めなかったり、正当な理由なく単位を与えずに、進級・卒業・修了を妨害したりする行為です。
<卒業・進級妨害の具体例>
・理由を示すことなく単位を認定しない
・卒業や修了の判定基準を恣意的に変更する
・自分の仕事を手伝うことを、卒業論文・修了論文提出の条件にしている
選択権の侵害
学生の就職や進学を妨害したり、教員・職員に対して望まない異動を強要したりする行為です。
<選択権の妨害の具体例>
・指導教員の変更を申し出た学生に退学を強要する
・本人の希望に反する研究テーマなどを押し付ける
・就職活動を禁止する
・就職や進学に必要な推薦書を書かない
・本人の希望に反する研究機関などへの異動を強要する
・結婚と学問のどちらかを選ぶよう選択を迫る
指導義務の放棄、指導上の差別
教員が学生に対して、職務上義務付けられている研究指導や教育を行わなかったり、一部の学生を差別的に取り扱ったりする行為です。
<指導義務の放棄、指導上の差別の具体例>
・作業や実験などを任せるものの、その目的をきちんと説明しない
・学生から提出された論文を添削せず、長期間放置する
・気に入った学生に対しては丁寧に指導する一方で、気に入らない学生には口を利かない
不当な経済的負担の強制
本来研究費から支出すべき費用を、学生や部下に自腹で負担させる行為です。
<不当な経済的負担の強制の具体例>
・実験に失敗した場合に、学生に実験費用を弁償させる
・卒業論文、修了論文の作成に必要な実験に用いる試料を学生に自腹で購入させる
研究成果の収奪
研究論文の著者を決める国際的なルールに従わず、学生や部下の研究成果を自分のものにしてしまったり、学生や部下などが出したアイデアを勝手に盗んだりする行為です。
<研究成果の収奪の具体例>
・若干の加筆訂正などをしただけの指導教員を第一著者として、学生がメインで作成した論文を発表する
・著者の順番を指導教員が勝手に決めてしまう
・学生や部下のアイデアを盗用して、自分が考えた研究であるかのように装って論文を執筆する
暴言、過度の叱責
職場におけるパワハラと同じように、学生や部下に対して度を超えた暴言や叱責を行う行為です。
<暴言、過度の叱責の具体例>
・「バカ」「幼稚園児の作文」「見ても時間の無駄」などと、学生や部下に対して侮辱的な発言を行う
・学生や部下が確認を依頼してきた論文を破り捨てる
・学生や部下の検討結果などを頭ごなしに否定する
・他の学生や部下が見ている前で、大声で怒鳴りつける
不適切な環境下での指導の強制
不適切な場所・時間帯などにおいて、学生や部下に指導を受けることを強制する行為です。
<不適切な環境下での指導の強制の具体例>
・深夜帯の指導を事実上強制する
・ホテルの一室など、他の人の目が行き届かない状況で個人指導を行う
権力の濫用
自分の方が上の立場であることを悪用して、学生や部下に対して不合理な規制を押し付けたり、違法行為を強要したり、本来義務のないことを行わせたりする行為です。
<権力の濫用の具体例>
・プライベートでの遊びやアルバイトを禁止する
・研究に関して他人と相談したり、他人の助けを借りたりすることを一切禁止する
・学生や部下に研究データの捏造、改ざんを行わせる
・プライベートでの交際を強要する
・学生や部下に自分の送り迎えを強要する
プライバシー侵害
研究活動・教育活動を行う上で、知る必要のないプライベートな情報を執拗に詮索する行為です。
<プライバシー侵害の具体例>
・家族関係、友人関係、恋人関係などを、本人が拒否しているにもかかわらず、教えるようにしつこく迫る
・趣味、嗜好に対してデリカシーのないコメントをする
他大学の学生、留学生、聴講生、ゲストなどへの排斥行為
正規の手続きを経て講義やゼミを聴講している他大学の学生、留学生、聴講生、ゲストをよそ者扱いし、講義やゼミへの参加を阻害する行為です。
<他大学の学生、留学生、聴講生、ゲストなどへの排斥行為の具体例>
・外部生に講義やゼミでの発言を認めない
・外部生であることを揶揄するような差別的・排斥的な言動を行う
アカデミックハラスメント(アカハラ)に悩んだら弁護士に相談を
アカデミックハラスメント(アカハラ)の問題は、大学・大学院という閉鎖的な空間で起きるということもあり、他の人に相談することに心理的な抵抗を覚えてしまうことも多いでしょう。
しかし、アカデミックハラスメント(アカハラ)を解決するためには、外部専門家による客観的な視点を入れて、問題の所在を突き止め、解決方法を考えていくしかありません。
もしアカデミックハラスメント(アカハラ)に悩んでいるという方がいらっしゃれば、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
弁護士は、大学・大学院の内部で行われるアカデミックハラスメント(アカハラ)の実態について、依頼者から丁寧に話を伺い、問題解決の方法を探ります。
特に、アカデミックハラスメント(アカハラ)の加害者や大学側に対する損害賠償などを検討する場合、弁護士に依頼をすれば、スムーズに交渉や訴訟などの請求手続きに移行することが可能です。
アカデミックハラスメント(アカハラ)問題をお一人で抱え込んでしまうと、大きな精神的負担に長期間苛まれてしまうことにも繋がります。
アカデミックハラスメント(アカハラ)にお悩みの学生・教員の方は、お早めに弁護士にご相談ください。
まとめ
アカデミックハラスメント(アカハラ)は、大学の構成員同士の間にある力関係の差を悪用して、大学における学び・教育・研究などを妨害する行為をいいます。
アカデミックハラスメント(アカハラ)には非常に多様なパターンがありますが、その要因の一つとして、大学・大学院が自治組織であるがゆえの閉鎖性があるものと考えられます。
そのため、アカデミックハラスメント(アカハラ)を解決に導くためには、弁護士などの外部専門家のチェック・サポートが不可欠です。
アカデミックハラスメント(アカハラ)に悩まされていて、学習・研究環境を改善したいという方は、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。