平成21年に始まった裁判員制度は、当時からニュースや新聞などでも数多く取り上げられてきました。
そのため「裁判員制度」という制度の名前は、もう多くの方が慣れ親しんできたのではないでしょうか?
とはいえ、裁判員制度って何?と聞かれると、きちんと答えることができない方も多いはず。
今回は、あなたもいつか裁判員に選ばれるかもしれない日本の「裁判員制度」について、基礎からわかりやすく詳しく解説していきます。
裁判員制度とは簡単に言うと
裁判員制度はいつから始まった?
日本では平成16年5月21日に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し、平成21年5月21日、つまり2009年から裁判員制度が始まりました。
まずは裁判員制度とは一体どのようなものなのか?基礎知識をおさらいしていきます。
裁判員制度の定義とは
「裁判員制度」とは、特定の事件に対する刑事裁判において、国民から事件ごとに裁判員を選び、その裁判員が裁判官とともに被告人が有罪か、無罪か、有罪である場合にはどのような刑にするかを決めていく制度のことです。
日本の裁判員制度のように、国民が裁判官とともに裁判に参加する制度は、アメリカ合衆国・イギリス・フランス・ドイツ・イタリアなどでも行われています。
裁判員制度の参加人数と参加期間
ある刑事事件において裁判員制度が適用されることとなった場合、裁判員制度にはどれくらいの人数が参加するのでしょうか?また、参加期間はどのくらいなのでしょうか?
参加人数は、もしも自分自身が裁判員として選ばれた場合に裁判員制度に参加するかどうか決めるうえでの大きなポイントとなります。
さらに、参加期間も仕事の休暇をとるうえで気になるところです。
国民から選ばれる人数は原則6人
裁判員制度が適用される刑事事件では、原則として、裁判員6人と裁判官3人で審理を行います。
ただし、以下の3つの条件をクリアしている場合には、裁判員4人と裁判官1人で審理・裁判を行うことができます。
- 被告人が犯罪における事実を認めている。
- 当事者に意義がない。
- 裁判所が適当と認める。
裁判員制度はだいたい1日5〜6時間で5日前後
裁判員を務めることになる日数は、刑事事件の審理にかかる日数となります。
そのため、参加期間は事件の内容によってそれぞれ異なります。
ただ、事件の多くは「5日前後」で終了します。
1日にどれくらいの間、裁判員として仕事をするかも、それぞれの事件や裁判所によって異なり、事件の内容や裁判員の負担を考慮してその都度決定されます。
通常は1日5〜6時間程度です。
裁判員に選ばれる人はどんな人?
実際に裁判員として選ばれる人はどのような人なのでしょうか?
裁判員として選ばれるための条件や、選ばれないのはどんな人なのか確認してみましょう。
何歳からか?年齢は20歳以上なら原則的に誰でも可能性あり
何歳から選ばれるかと言うと、年齢が20歳以上で、衆議院議員の選挙権がある人であれば、原則として誰でも裁判員の候補者となり選ばれる可能性があります。
しかし、年齢が20歳以上で選挙権を持つ人であっても、法律上裁判員になることができない人もいます。
裁判員に選ばれない人
では20歳以上の選挙権を持つ人でも、裁判員になることができないのはどのような人なのでしょうか。
法律上、裁判員になることができない欠格事由・就職禁止事由・不適格事由が定められています。
このような事由に当てはまる人は、裁判員になることができません。
欠格事由
欠格事由は、裁判員法14条に規定されています。
- 国家公務員になる資格のない人(成年被後見人、懲戒免職処分を受けて2年を経過しない人)
- 義務教育を終了していない人(ただし、義務教育を終了した者と同等以上の学識を有する者は除きます。)
- 禁錮以上の刑に処せられたことがある人
- 心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある人
就職禁止事由
就職禁止事由は、裁判員法15条に規定されています。
- 国会議員、国務大臣、国の行政機関の幹部職員
- 都道府県知事、市町村長
- 司法関係者(裁判官、検察官、弁護士、司法修習生、弁理士、司法書士、警察官などがこれに当たります。)
- 大学の法律学の教授
- 自衛官
- 禁錮以上の刑に当たる罪につき起訴され、その被告
- 事件の終結に至らない者
- 逮捕もしくは勾留されている者
不適格事由
不適格事由は、裁判員法17条及び18条に規定されています。
- 被告人又は被害者、その親族、同居人等
- その事件の告発等をした人
- その事件の関係者(代理人、弁護人、担当検察官等)
- 不公平な裁判をするおそれがあると裁判所が認めた人
これらの欠格事由・就職禁止事由・不適格事由に当てはまらない、20歳以上の選挙権を持つ人が、裁判員の候補対象となります。
裁判員制度の対象事件
裁判員制度は、全ての刑事事件が対象事件となるわけではありません。
ではどのような事件の裁判において、国民が裁判員として選ばれるのでしょうか?
裁判員と言っても、一般人である国民が審理を行うということは、裁判員制度の対象となるのは「簡単で軽い犯罪のみなのではないか?」とよく誤解されています。
しかし裁判員制度の対象となる事件は、地方裁判所で行われる刑事裁判(第一審)のうち、ある程度「重大な事件」なのです。
以下に裁判員制度が適用される犯罪の具体例を示しておきます。
- 殺人罪(人を殺してしまった場合)
- 強盗致死傷(強盗に入り、人に怪我をさせた、もしくは死亡させてしまった場合)
- 傷害致死(人に怪我をさせて、死亡させてしまった場合)
- 危険運転致死(泥酔い運転など危険な自動車運転をして、人を死亡させてしまった場合)
- 現住建造物等放火(人の住んでいる建造物に火をつけた場合)
- 身代金目的誘拐罪(身代金を取る目的で、人を誘拐した場合)
- 保護責任者遺棄致死(保護責任者の立場にあるものが、食事など生存に必要な保護をせずに放置した結果、死亡させてしまった場合)
- 覚せい剤取締法違反(財産上の利益を得る目的で、覚せい剤を密輸入した場合)
裁判員として出る場合、有給休暇扱いになるの?
従業員の方が裁判員に選ばれた場合には、裁判員の仕事に必要な休みを取ることは労働基準法第7条で認められています。
また、裁判員制度への参加のために仕事を休んだことを理由に、解雇・クビなどの不当な扱いをすることも禁止されています。
裁判員候補者として、選任手続期日に出向く場合も同様です。
第7条 (公民権行使の保障)
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
裁判員としての仕事は、この労働基準法第7条にある「公の職務」に該当します。
ただし、その休暇を有給休暇とするのか無給休暇とするのかは、各企業の判断に委ねられることとなります。
ちなみに、選任手続期日の6週間前までには通知が来るため、ある程度余裕を持って日にちの調整をする事が可能です。
審理の期間が通常よりも長くかかる裁判になりそうな場合は、8週間前に通知が来ることもあります。
この通知に、裁判員に選ばれた場合にいつから裁判員を務めることになるのか、裁判所に行かなくてはならない日にちはいつなのかなどが記載されています。
裁判員制度の目的とは
これまで裁判員制度の基礎知識を簡単に解説してきました。
では、この裁判員制度が日本に導入された目的とは何なのでしょうか?
国民の司法府への理解の促進
多くの国民は毎日の生活を送るうえで司法に関する事を気にすることなく、日々過ごしています。
そこで、裁判員制度という市民参加のシステムを導入することにより、国民の司法に対する理解を促進することを目指しています。
市民の感覚を司法府に反映する
国民の関わっている事件の審理を行う裁判官や弁護士などは、一般の国民の感覚から離れているという批判もあります。
そこで裁判員制度の導入により審理に国民が参加することで、裁判の内容や進め方に国民の視点や感覚を反映することを目指しています。
その結果として、司法全体に対して国民の理解が徐々に深まっていき、裁判を身近に感じ、司法への信頼も高まっていくことが期待されています。
裁判員制度のメリット・デメリット
どんな制度であっても、メリットもあればデメリットもあるのが現実です。
では、裁判員制度のメリットはどのような点なのか、そしてデメリットにはどんな点が挙げられるのかを簡単に見ていきましょう。
裁判員制度のメリット
まず1番のメリットとして挙げられるのは、国民が裁判に直接参加し、有罪無罪の判断に加えて量刑も決定することで、国民が社会構成員としての役割を担うことになるということです。
このことにより、一般市民の常識から外れた判決が出てしまうことを防ぐことができ、司法への国民の信頼も高まることが期待できます。
さらに、
- 裁判の迅速化と時間短縮を目指すことができる。
- 諸外国が市民参加制度の導入をしているため、世界的な流れに合わせることができる。
- 国民に対して、より開かれた刑事裁判が実現される。
- 国民が裁判に興味を抱くきっかけになる。
など、裁判員制度は様々なメリットを持ち合わせています。
裁判員制度のデメリット・問題点
一方でデメリットや問題点も多く挙げることができます。
ま
ず、問題点となっているのが辞退率の高さです。法律で認められているとはいえ、仕事を休みにくい…という方や無給休暇扱いになると経済的に苦しいなどという理由から、裁判員候補者に選ばれても辞退する方が多いのが現実です。
平成22年に53.0%だった辞退率は、施行から3年経過した平成24年に61.6%、平成30年には67.0%と年々上昇していることがわかっています。
そのほかにも、
- 量刑相場が崩れる。法的安定性が崩壊する。
- 公判前整理手続きが非公開であるため、真に判断できるか疑義が生じる。
などのデメリットも挙げることができ、なかには「裁判員制度が違憲であるという学説」もあります。
裁判員制度が違憲であるという学説は、主に
- 私生活をみだりに公開されない権利(プライバシー権)(日本国憲法第13条)
※以下全て日本国憲法 - 身体的自由権(第18条)
- 思想良心の自由(19条)
- 表現の自由(21条)
- デュプロセス(31条)
- 公平で迅速な裁判を受ける権利(37条)
- 裁判官の独立(76条)
- 裁判官のみで構成(80条)
などを根拠としており、裁判員制度はまだまだ多くの問題を抱えています。
まとめ
今回は裁判員制度について、基礎から確認してきました。
裁判員制度は、20歳の有権者ならば原則的には誰でも裁判員候補となり得ます。
いざ自分が選ばれた時に慌てることのないよう、基本的な知識を頭に入れておくようにしましょう。