2020年7月21日、最高裁でリツイートの著作権侵害と発信者情報開示についての判決が出されました。
今回は、最高裁判決と林裁判官の反対意見を中心に、Twitterでリツイートをする際に考えることを検討してみましょう。
最判令和2年7月21日の事案
本件は、簡略化すると次のような事実関係で、著作権者がTwitter社に対して発信者情報開示を求めた事案でした。
- ある写真家の写真が、無断で、あるTwitterアカウントのプロフィール画像に使用された
- 同様に、無断で写真を画像付きツイートとして使用された
- この無断で使用されたツイートを複数人がリツイートした
このうち、無断でプロフィール画像に使用したり、無断でツイートするのは、公衆送信権の侵害にあたり著作権法違反となる(著作権法23条1項)ということは分かりやすいと思います。
問題はリツイートした人が著作権侵害または著作者人格権侵害になるかということです。
ただ、本件は無断でツイートされた画像のリツイートであって、著作者自身のツイートのリツイートとは全く異なる、という点は最初に押さえておきましょう。
なお、本件判決には、今回記事で解説する内容のほか、
- HTMLデータの送信もプロバイダ責任制限法4条1項1号の「侵害情報」にあたり得るとしたこと
- 氏名表示権の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は著作物の利用に係ることを要しないとしたこと
という2つの意義がありますが、長くなってしまうので割愛します。
様々な先生方が解説を書かれているので、探してみてください。
リツイートの何が問題か
事案当時のTwitterの仕様では、画像付きツイートがリツイートされると、自動でトリミング(インラインリンクが生成)されるようになっています。
本来正方形の画像が横長に、縦長の画像が正方形などにトリミングされて表示されているのは、Twitterを使っている方はなんとなくイメージできると思います。
例えば下の画像のように、左が実際の画像だとして、タイムラインでは右側の中央だけのようにトリミングして表示されることが通常です。
こうなると、画像端に入っている著作者の氏名などは表示されません。
写真を無断で使用された原告は、このリツイートによって画像にある自分の氏名がトリミングされたことで、同一性保持権(同法20条1項)と氏名表示権(同法19条1項)を侵害されたと主張したのです。
この他、公衆送信権、名誉声望保持権(著作権法113条6項)などの侵害も問題としていますが、いずれも侵害を否定されていますので、この記事では割愛します。
また「トリミングの主体が誰になるのか」というのも重要な争点ですが、Twitterの仕様とはいえリツイートした人がトリミングの主体とされている、と認識しておけばよいでしょう。
最高裁の判断
まずは判決文の一部を引用します(以下、〔〕内筆者、()内原文)。
本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページ〔タイムライン〕とは別個のウェブページ〔元画像のページ〕に本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページ〔タイムライン〕を閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。
〔中略〕本件各リツイート者は,本件各リツイートにより,本件氏名表示権を侵害したものというべきである。
簡単に言えば、「通常表示されるタイムラインで氏名表示が切れていて、拡大表示しなければ著作者名を見られないうえに、通常は毎回拡大表示などしない。したがって、リツイートでは著作者名が表示されておらず、氏名表示権を侵害している」ということです。
原審である知財高裁判決から変わっていません。
なお、同一性保持権については原審では侵害が認められましたが、最高裁では特に言及していません。
しかし、考えてみれば、Twitterの仕様で勝手にトリミングされてしまうのに、リツイートしたひとが著作者人格権侵害に問われるというのは納得できないところもあるでしょう。
何も知らずにリツイートしたら氏名表示権侵害で、発信者情報が開示され(本件ではメールアドレスのみ)、論理的には損害賠償請求もあり得るというのは、Twitterユーザーとしては全く安心できないはずです。
こうした判決の問題点を指摘しているのが、林景一裁判官の反対意見です。
林反対意見と戸倉補足意見
林反対意見
まず、林裁判官は、Twitterの仕様で決められていてリツイートした人には表示方法の変更等の余地がないのに、トリミングの主体とするのは言えないとしています。
本件氏名表示部分の不表示は,ツイッターのシステムの仕様(仕組み)によるものであって,こうした事態が生ずるような画像表示の仕方を決定したのは,上告人〔Twitter社〕である。これに対し,本件各リツイート者は,本件元ツイートのリツイートをするに当たって,本件元ツイートに掲載された画像を削除したり,その表示の仕方を変更したりする余地はなかったものである。
また,上記のような著作者人格権侵害が問題となるのは著作者に無断で画像が掲載される場合であるが,本件で当該画像の無断アップロードをしたのは,本件各リツイート者ではなく本件元ツイートを投稿した者である。
以上の事情を総合的に考慮すると,本件各リツイート者は,著作者人格権侵害をした主体であるとは評価することができない
個人的には実にそのとおりのご指摘だと思います。
「トリミングされる仕様にしておいて、トリミングによって著作権の問題が生じたらユーザーの責任です」というのは一般的には筋の通った論理とは思えません。
次に、林裁判官はTwitterなどのSNSの情報インフラとしての重要性を踏まえ、わいせつ画像や誹謗中傷がツイートもリツイートも許容されないことは当然としたうえで、一般的に問題ないと判断される画像などあらゆる画像付きツイートで出典や著作権者の同意などを確認しなければいけないのは利用者の負担が大きいと述べています。
本件においては,元ツイート画像自体は,通常人には,これを拡散することが不適切であるとはみえないものであるから,一般のツイッター利用者の観点からは,わいせつ画像等とは趣を異にする問題であるといえる。
多数意見や原審の判断に従えば,そのようなものであっても,ツイートの主題とは無縁の付随的な画像を含め,あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならないことになる。私見では,これは,ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず,権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない。
この林反対意見は、おそらく一般的なTwitterユーザーの感覚に近いものでしょう。
ユーザーが「リツイート前に、そのツイートの著作権侵害等を検討してからでないと、あなたが著作権法違反になります」と言われれば、リツイートを控える人も出てくると思います。
ただ、多数意見は、こうしたユーザーの負担も、著作権侵害を防ぐためにやむを得ないものと判断しているようです。
このことは次にご紹介する戸倉補足意見から読み取れます。この戸倉補足意見を読むと、多数意見の考え方も理解しやすくなります。
戸倉補足意見
戸倉三郎裁判官(裁判長)の補足意見では、上記反対意見にあるユーザーの負担について、次のように述べています。
リツイートを行うに際して,当該画像の出所や著作者名の表示,著作者の同意等に関する確認を経る負担や,権利侵害のリスクに対する心理的負担が一定程度生ずることは否定できないところである。
しかしながら,それは,インターネット上で他人の著作物の掲載を含む投稿を行う際に,現行著作権法下で著作者の権利を侵害しないために必要とされる配慮に当然に伴う負担であって,仮にそれが,これまで気軽にツイッターを利用してリツイートをしてきた者にとって重いものと感じられたとしても,氏名表示権侵害の成否について,出版等による場合や他のインターネット上の投稿をする場合と別異の解釈をすべき理由にはならない
つまり、Twitterであっても出版であっても、その他のSNS等であっても、著作権侵害に注意するのは同様であるということを述べています。
この結論は、林反対意見も指摘する「ユーザーは画像の表示方法を変更できない」という点を考慮できていないようにも感じます。
通常、出版であれば当然著者や出版社がハンドリングして多重にチェックできますし、問題があれば自分たちの意思で変更できます。
しかし、リツイート元のツイートが著作権侵害しているかどうか、Twitterの仕様上リツイートによって著作者人格権を侵害するかどうかについて、ユーザーに都度チェックを要求するのは現実的ではなく、仮に侵害に気付いても変更できない以上、ユーザーに負担を負わせるのは適切ではないでしょう。
ともあれ、これらを述べたうえで、ユーザーが意図せず著作権侵害等をしてしまう危険性も考慮して、Twitter社に対して適切な対応を求めています。
今後も,そのような仕様であることを知らないリツイート者は,元の画像の形状や著作者名の表示の位置,元ツイートにおける画像の配置の仕方等によっては,意図せざる氏名表示権の侵害をしてしまう可能性がある〔中略〕。
ツイッターは,社会各層で広く利用され,今日の社会において重要な情報流通ツールの一つとなっており,国内だけでも約4500万人が利用しているとされているところ,自らが上記のような状況にあることを認識していないツイッター利用者も少なからず存在すると思われること,リツイートにより侵害される可能性のある権利が著作者人格権という専門的な法律知識に関わるものであることなどを考慮すると,〔中略〕著作者人格権の保護やツイッター利用者の負担回避という観点はもとより,社会的に重要なインフラとなった情報流通サービスの提供者の社会的責務という観点からも,上告人〔Twitter社〕において,ツイッター利用者に対する周知等の適切な対応をすることが期待される。
余談ですが、この戸倉裁判官は、あの有名な岡口基一裁判官に関連して、「裁判官がTwitterにパンツ一丁の写真を上げるのは許容されるが、縄で縛られた写真はアウト」という、いわゆる戸倉基準を打ち出した人です。
まあ許容すると明言したわけではなく、特に言及しなかっただけですが…。
今後のTwitterはどうなる?
おそらくですが、今回の判決や補足意見を受けて、Twitterは仕様変更するのではないでしょうか。
戸倉補足意見は「周知等」と述べていますが、実際に利用規約などをしっかり読む人はそれほど多くありませんし、現実的に今回のような問題を生じさせないためには仕様変更が最も確実です。
また、もしこのままの状態でいると、リツイートした人が著作権者から損害賠償請求などを受けた場合、Twitterの仕様に問題があるとしてリツイートした人からTwitterに損害賠償請求または求償される可能性もあるでしょう。
Twitterユーザーはどうすればいい?
しかし、仕様変更は別にしても、私たちがTwitterなどのSNSを利用する際には、著作権侵害の可能性や、今回は取り上げていませんが名誉毀損などの可能性もある点に十分注意する必要があります。
SNSは実生活と比べると他者の権利侵害に鈍感になってしまう側面があるように感じますが、場がSNSであるというだけで、それぞれの権利については変わらないということを再認識しましょう。
それにしても本件の判決は現実からの乖離が少し大きいような気はしますが…。
本件は発信者情報開示請求に伴う判断なので、著作権者:ツイッター社の訴訟で、もし著作権者:リツイート者の損害賠償請求訴訟であれば、また異なる判断になった可能性は十分にあると思います。
著作権者は何に気をつければいい?
一般論に近いですが、画像に関して言えば、画像内に著作権者の名前を表示しておくことが有効です。
というのも、著作権の訴訟等では、「その画像が本当にその著作権者のものなのか」が争われることが少なからずあり、署名がないと著作権者が自分の画像であることを立証しなければなりません。
画像内に署名を入れておくことで立証責任が転換され、侵害者が、その著作権者の画像でないことを立証することになります。
本件の原告も署名を入れていましたが、画像の端に入れた署名はトリミングされてしまって、今回の判決に至ったということですね。