大学生の新歓コンパの時期などは、必ずしも成年に達していない男女が、居酒屋等で飲酒している様子を見かけます。たしか、未成年は、飲酒は法律で禁止されていましたよね。
でも、お店が未成年にお酒などアルコールを提供した場合、お店に責任があるのでしょうか、それとも実際に飲酒している未成年者側に責任があるのでしょうか。
なお、本稿では未成年者とは20歳に満たない者をいうこととします。
法律の規制はどうなっているのでしょうか?
まず、未成年者飲酒禁止法という法律(以下「禁止法」といいます。)では、未成年者が飲酒することを禁止するとともに、営業者(居酒屋等の店のこと)が未成年者であることを知って飲酒を提供することを禁止しています。
違反すれば、店側(提供した例えば店長と経営者である法人)に50万円以下の罰金が科されます。
次に、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」といいます。)では、風俗営業を営む者は、営業所で未成年者に酒類又はたばこを提供することを禁止しております。違反すれば、風俗営業を営む者である責任者や法人に1年以下の懲役又は1,000,000円以下の罰金が科されます。
未成年者に飲酒させた店側と飲酒した未成年ではどちらに責任があるのでしょうか?
禁止法でも、風営法でも先にみたとおり、罰金や懲役(風営法違反のみ)を課されるのは、店側のみです。しかも、禁止法違反と風営法違反では風営法違反の方が、刑が格段に重くなっているので、店側には重い責任が課せられているといえます。
したがって、酒屋等で未成年者が店から提供を受けたアルコールを飲酒した場合、店側に責任があるということになります。
では、なぜこのような店側にのみ重い責任を課しているのでしょうか。
それは、禁止法や風営法の趣旨(なぜ、このような法律を立法する必要性があったのかということ)によります。
まず、禁止法は、1条1項で未成年者の飲酒を禁止していますが、3条で店側にも未成年者であることを知って酒類を供与することを禁止しています。しかし、罰則が科されているのは、店側のみです。
しかも、1条の4項で、店側に飲酒を提供する際に未成年者ではないことの確認義務を課しています。このような条文の定め方からすると、禁止法は飲酒した未成年者を処罰することにより未成年者の飲酒を禁止しようとするのではなく、未成年者に対し酒類を供与する立場の店側に未成年者ではないことの確認義務を課し、また罰則付きで未成年者への種類の提供を禁止することで、未成年者の飲酒を禁止していると考えられます。
そこには、禁止法は、未成年者を、飲酒行為の危険から保護する趣旨であると考えられるのです。
また、風営法において、風営法自体の目的として1条で青少年の健全な育成という目的を掲げ、禁止法と同様に店側のみに、罰則付きで酒類の提供を禁止する規制をしていることからすると、風営法も禁止法と同様に未成年者を飲酒行為の危険から保護する趣旨であると考えられます。
以上のような禁止法と風営法の趣旨から、店側のみに責任が課されているのです。
自分の携わる飲食店で未成年者にアルコールを提供していたことが発覚した場合にどうすればいいのでしょうか
この場合は、禁止法違反、風営法違反の疑いがあります。
禁止法は罰金50万円、風営法は1年以下の懲役若しくは1,000,000円以下の罰金又は両者の併科です。
どちらにせよ、捜査機関に違反事実がわかる程度の明らかとなった場合、(例えば、店で飲酒していた未成年者が、店内又は店外でほかのお客様とトラブルになって、警察に通報されたようなケースです。)には、警察等の捜査機関は、捜索・押収又は取り調べなどの捜査を行うことが予想されます。
ただ、そこで立件まで行くかといえば、過去の事例からしても微妙なラインかなと思います。
とはいえ、まったく立件されないと言い切れるものでもありませんので、ご注意が必要です。
では、立件されないためにどのような方策が必要なのでしょうか。
まず、店側が、飲酒した者が未成年であったとは知らなかったという抗弁ができるでしょうか。
この点、上記のとおり禁止法では、店側に酒類を提供する際には、未成年者かどうかの確認義務を課されておりますが、店側がそもそもこの確認義務を果たしていない場合、一見すると未成年者であることがわからない場合で、例えば、店側が、酒類を提供する際に、20歳未満ではないですよね、などと確認をしたのに、未成年者が虚偽を告げたなどという場合でない限り、店側が飲酒した者が未成年者であったとは知らなかったという抗弁はできないものと考えておいた方がよいです。
次に、店長が勝手に提供させていただけであるとの抗弁はどうでしょうか?
店長は店からすると使用人ですので、店の意向と離れて行動することはできません。そして、店長が勝手にやったとしても店としての店長の監督を十分行っていたことを証明できない限りは、店側が店長の行為を黙認していただけということになり、店側の責任を免れることはできません。
では、店として立件回避のためにやるべきことはなんでしょうか。
まず、店として禁止法履行のためにどのような方策を取っていたかを確認することです。
例えば、学生風の者に対し飲酒を提供する際には、未成年者ではないことの確認を店員に対し行わせていたかどうかなどの方策を取っていたかなどです。
また、例えば、店舗に未成年者には飲酒を提供しませんなどのステッカーを貼付しているかどうかなども必要になろうかと思います。
さらに、店長等の現場責任者や店員などへの研修の内容、回数なども考慮すべき事情一つであると考えられます。
上記のような事情を集めることにより、店側として故意に提供していたのであれば格別、ほとんどの場合が過失によるものと思われますので、どれだけ注意を払っていたかを客観的な証拠として証明できるがポイントになろうかと思います。
ただ、どのような証拠が必要か、それをどのような形で捜査機関又は裁判所に提示・提出するかについては、法律の専門家である弁護士に任せた方がよいでしょう。
実例:実際に送検されたケース
実際の事例として、10代の少年がひき逃げ事件等を起こし、その少年に酒類を提供した居酒屋(法人)と店員が送検された事例があります。
少年は友人とその居酒屋で酒を飲んだ後、軽自動車を運転し(もちろん無免許運転です。)、通行人を死傷させるとともに、乗用車に衝突するなどして同乗していた友人も死亡させるという事故を引き起こしました。少年は警察に逮捕されましたが、その後の捜査により、その居酒屋が少年に酒類を提供していたことが発覚しました。
警察は、今回の事故の社会的影響の大きさを受けて、店と店員を 風営法違反(当時の法定刑で6か月以下の懲役及び50万円以下の罰金)で書類送検しました。
なお、その後の捜査で、店側は、店員に対し、未成年者から酒類の提供を求められた際の対処法などを指示していなかったことが判明しました。
まとめ
以上のように未成年者に対し酒類を提供した場合に、店側のみが刑事責任を負うことなり、情状によっては実際に書類送検に至る場合もありますので、ご注意ください。また、このような場合には、速やかに法律の専門家である弁護士に相談したその指示を仰ぐのが適切でしょう。