野外で、紙や木のくずをドラム缶などで燃やしている人を見かけたことはあるでしょうか。
これは「野焼き」といわれるもので、煙が舞い上がり、ニオイもきつく、隣人からの苦情も多いものです。
そもそも「野焼き」は法律上、禁止されているのでしょうか。
禁止されているとしても、野焼きを例外的に認める場合はあるのでしょうか。
また、野焼きをしている人を見かけたら、どうすればいいのでしょうか。
この記事では、「野焼き」にまつわる法律問題について、分かりやすく解説していきます。
野焼きは違法なの?
野焼きとは|ゴミを燃やすことも含む
野焼きとは、野外や野山で草木を焼き払うことをいいます。
なお、「ゴミを屋外で燃やすこと」も野焼きと呼ばれることがあります
野焼きは法律で原則禁止!
野焼きは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の第16条の2により、原則として禁止されています。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律の第16条の2は、次のように規定しています。
(※以下、この記事ではこの法律のことを「廃棄物処理法」と呼びます。)
<第16条の2>
「何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
(1)一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従って行う廃棄物の焼却
(2)他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却
(3)公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの」
この条文により、(1)~(3)に規定されている場合を除き、原則として野焼きは禁止されていることが分かります。
野焼きは条例でも禁止されている
野焼きは廃棄物処理法だけでなく、各地方自治体の条例においても、原則として禁止されています。
たとえば、「静岡県生活環境の保全等に関する条例」では、第100条において野焼きを禁止することが規定されています。
<条例 第100条>
「(1)事業者は、ばい煙、悪臭等を発生するおそれのあるゴム、合成樹脂、油、紙、木材、皮革、布、厨芥類を廃棄物処理法に定める焼却基準によらず、屋外で燃焼させてはならない。
(2)事業者以外の者は、前項に定める物を屋外においてみだりに燃焼させてはならない。」
野焼きは罰則あり?罰金に処される可能性もある?
廃棄物処理法第16条の2に違反して、野焼きをした場合には、廃棄物処理法第25条第15号により、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処される可能性があります。
<廃棄物処理法 第25条>
「次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(15)第16条の2の規定に違反して、廃棄物を焼却した者」
また、地方自治体によっては条例において、野焼きをした者に罰金を処する旨の定めがある場合もあります。
なぜ、野焼きは原則として禁止されているの?
野焼きは、「ダイオキシン類排出抑制」と「廃棄物の適正処理」の観点から、原則として禁止されています。
野焼きは、「野焼きの煙によって咳き込む」「野焼きの煙の臭いが洗濯物につくので洗濯物を干せない」「窓を開けることができない」など、近隣住民に迷惑をかけることがありますが、このような迷惑にとどまらず、発がん性などの毒性が高いため、環境が汚染してしまうことがあります。
これによって、人間の健康や生態系への影響が懸念される「有機塩素化合物」が排出される可能性もあります。
したがって、野焼きは住民の生活環境や健康状態を保護するためにも、原則として禁止されています。
野焼きが認められる例外はある?
野焼きが認められる例外
先ほど解説した、廃棄物処理法第16条の2は、野焼きを例外的に認める場合を規定しています。
<第16条の2 例外>
「(1)一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従って行う廃棄物の焼却
(2)他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却
(3)公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの」
分かりやすくいうと、基準や他の法律に従って行う野焼きや、生活環境を害しない軽微な野焼きは禁止されないということです。
農業・林業・漁業について
廃棄物処理法第16条の2(3)の「政令で定めるもの」には、次のようなものがあります。
<廃掃法施行令14条4号>
「農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われるもの」
たとえば「農業者が行う稲わら等の燃やすこと」などが挙げられます。
もっとも、農林業を営む上でやむを得ないものとして認められたとしても、森林法第21条は、森林の周辺で野焼きを行う場合は、市町村長の許可を得ることを求めています。
<廃掃法施行令14条5号>
「たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの。」
たとえば、たき火やキャンプファイアーなどを行う際の「木くずを燃やすこと」などが挙げられま
す。
もっとも、軽微であったとしても近隣住民から煙や臭いについて苦情があった場合には、地方自治体からの指導を受けることがあり、このような場合には中止せざるを得ません。
その他、野焼きが認められる例外
この他にも、風俗習慣上・宗教上の行事を行うために必要な場合や、国・地方自治体が施設管理を行うために必要な場合、災害の予防・応急対策・復旧のために必要な場合には、例外的に野焼きが認められることがあります。
野焼きをして罰金を命じられた事例・罰金相場
野焼きをして罰金を命じられた実際の事例を紹介します。
裁判例:下関簡易裁判所平成25年09月10日判決
<事案>
男性Xは、事前に消防署に焼却することを連絡した上で、自宅近くの空き地で合計約500キロの丸太や枝などを燃やしました。男性Xは、この野焼きが廃棄物処理法に違反するとして、罪に問われましたが、裁判において男性Xは、「事前に消防署に連絡を入れたうえで焼却を行ったのだから、無罪である。」と主張しました。
<判決>
裁判所は、「男性Xは、市の清掃当局や警察署などに焼却することを事前に問い合わせていない。」とし、男性Xが事前に消防署に連絡を入れていたことについては、「消防署は屋外焼却の可否についての所管官庁とはいえない。」として、男性Xの主張を退けました。
そして、男性Xが「野焼きは違法とは思っていなかった」としても、法律に違反したこと自体には変わりないことから、有罪としました。
結論としては、裁判所は男性Xに対し「罰金50万円」の支払いを命じました。
なお、男性Xからの事前の連絡に応対した消防職員は証人出廷し、燃やすことを止めなかったことは認めました。しかし、市消防局予防課は「消防署に事前の連絡を入れたことで、屋外焼却の許可を得たと勘違いされては困る」と説明しています。
野焼きは火を扱うものなので、消防署に問い合わせればいいと思いがちですが、消防署に連絡をしてもあまり意味がないということが、この裁判例から分かります。
富士市における野焼きの検挙状況から見る罰金の相場
富士市では、富士市において実際に検挙された野焼きの状況について、ホームページで紹介しています。
<平成27年度>
・リサイクル業を営む男性(53歳)と、解体業を営む男性(38歳)が、木くず約1.65立方メートルを資材置場で野焼きしていたという事案。
➞ 罰金30万円の支払いを命じました。
・建設業を営む法人が、木くず約6.3キログラムを法人敷地内で野焼きしたという事案。
➞法人は不起訴処分とし、会社役員の男性(63歳)に、罰金20万円の支払いを命じました。
・運送業を営む法人が、木くず約3.5キログラム、廃プラスチック約1.3キログラムを法人敷地内で野焼きしたという事案。
➞ 法人に対し、罰金20万円、会社役員の男性(72歳)にも罰金20万円の支払いを命じました。
<平成28年度>
・無職の男性(61歳)が木くず約6キログラムを野焼きしたという事案。
➞起訴猶予としました。
・会社員の男性(60歳)が紙くず約1.6キログラムを野焼きしたという事案。
➞起訴猶予としました。
・無職の男性(61歳)が木くず約29キログラムを野焼きしたという事案。
➞起訴猶予としました。
これらの事案は、検挙された事案のうちの1部にすぎませんが、木くず約6.3キログラムを野焼きして罰金20万円を命じられた事案もあれば、木くず約29キログラムを野焼きしたのに起訴猶予となっている事案もあることが分かります。
つまり、野焼きした物の対象や、野焼きした物の分量によって、罰金などの処分が決められているわけではないことが分かります。
野焼きをした時間帯や、周辺の環境、周辺住民に与える影響などを考慮して、総合的に判断されていると考えられます。
また、野焼きをした場合に命じられる罰金相場は20万円から30万円くらいが多い傾向にあります。
野焼きをしている人を見かけたら、どこに苦情を入れればいい?
お住いの自治体に通報をする
野焼きをしている人を見かけた場合には、お住いの自治体に通報をしてみましょう。
たとえば千葉県野田市は、野焼き行為を発見した場合の通報先として、①野田市役所環境保全課、②野田市消防本部、③野田警察署生活安全課の3か所を案内しています。
千葉県野田市では、基本的には環境保全課で野焼きについて対応しており、通報があった場合は、現地に出向き、野焼きが確認された場合は野焼き一部禁止の指導や、説明を行っているようです。
また、市役所が休みの日である土・日・祝日や業務時間外の野焼きについては、野田市消防本部、野田警察署が対応することとしています。
なお、現に野焼きをしていない場合でも、野焼きの形跡があった場合には、行政指導の根拠となり得るため、お住いの自治体に通報することが望ましいです。
実際に、千葉県野田市では、野焼きの形跡を発見した場合には自治体に情報提供することを求めています。
警察署に通報をする
野焼き行為を発見したときに、お住いの自治体が業務時間外であれば、警察署に苦情を入れてみましょう。
野焼きが火災を発生させるような危険な場合には、直ちに消防署に通報することが望ましいですが、そのような危険はなく、煙や煙の臭いが迷惑しているような場合には、警察署に通報をしましょう。
野焼きは原則として違法であり、軽微であっても周辺住民に迷惑をかけているのなら、違法とされることがありますので、警察官は野焼きをしている人に対して、野焼きの中止や指導を行ってくれることが考えられます。
野焼きを発見したとしても、野焼きをしている人に直接注意をすることは、トラブルにつながることがありますので、なるべく避けておきましょう。
消防署に通報をする
消防署は、屋外焼却の可否についての所管官庁ではないことを、先ほどの裁判例において解説しましたが、実際に危険な野焼きが行われているところを見かけた場合には、消防署に通報をしましょう。
野焼きの程度によっては火災が発生し、事件へと繋がってしまう可能性もありますので、危険な野焼きの場合には、消防署に通報することが良いでしょう。
もっとも、消防署通報をしても、軽微な野焼きの場合は「市役所に連絡してください」と言われてしまうこともあります。
近くに工場や鉄道があるような地域であれば、消防署がすぐに駆け付けてくれることもありますが、そうでない場合には、動いてくれないこともあります。
そのため、消防署に通報する場合には、野焼きの程度を見て、火災が発生する危険性があるか否かを見極めましょう。
まとめ
野焼きは法律上、原則として禁止されており、違法です。
違法に野焼きをした場合には、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処される可能性もあります。
野焼きが認められる例外もありますが、周辺住民にとって迷惑となるものであれば、中止を求められることもあります。
野焼きは、近隣住民に迷惑をかけるだけでなく、生活環境や健康状態にも悪影響を及ぼすおそれがあり、また場合によっては火災が発生する危険性もあるものです。
迷惑となる野焼きをしている人を見かけたら、お住いの自治体や警察、消防署に相談するようにしましょう。