騒音規制法というとその名の通り、騒音について規制する基準を定めたものであるということは容易に想像できますが、どのような騒音について規制している法律であるのかということについてはあまり知られていません。
そこでこの記事では、騒音規制法がどのような騒音を規制しているのか、その規制内容について解説します。
騒音規制法とは|他の法律との違い
騒音規制法の概要
騒音を規制する法律というと一般的に想像されるのが「騒音規制法」です。
騒音規制法は、工場や事業場における事業活動、建設工事に伴って発生する騒音についての規制と、自動車騒音や深夜騒音等の規制を定める法律です。
また、騒音規制法は個人の生活騒音を対象とするものではなく、主に事業主を対象として規制する法律となっています。そのため、騒音規制法に基づいて隣人の騒音に何か文句を言ったり訴えたりすることはできません。
日常生活の騒音については、下記記事をご参照ください。
騒音規制法と環境基本法の違い
騒音を規制する法律としては「環境基本法」もあります。
環境基本法は、騒音全般と航空機騒音、新幹線鉄道騒音に関する環境基準を定めたもので、騒音規制法とは規制対象が異なります。
また、この環境基準は、「維持されることが望ましい基準」であって、これに違反したからといって何か罰則が定められているわけではありません。
他方、騒音規制法は、市町村長による改善勧告や改善命令が認められており、改善命令に違反した場合には懲役や罰金の罰則が定められています。
騒音規制法と東京都など各自治体の条例の違い
騒音規制法では日常生活の騒音については規制対象とされていません。
他方、各自治体はそれぞれの地域に応じて騒音を規制する条例を制定しており、「日常生活の騒音についても規制対象」となっている条例があります。
たとえば、東京都の「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(以下「条例」といいます)では、日常生活等に適用する規制基準が定められており、これを超える騒音を発生をさせてはならない旨が規定されています(条例136条)。
騒音規制法の内容
騒音規制法における騒音規制としては、①工場や事業場における騒音の規制、②建設工事作業における騒音の規制、③自動車騒音の規制、④深夜騒音等の規制の4つに分けることができます。
①工場や事業場における騒音の規制|特定施設とは
工場や事業場における騒音の規制では、「特定施設」を設置する工場や事業場が規制対象とされています。
「特定施設」とは、工場又は事業場に設置される施設のうち、著しい騒音を発生する施設であつて政令で定めるものをいいます(騒音規制法2条1項)。
この「特定施設」として政令で定められているものとしては、機械プレスなどの金属加工機械や空気圧縮機、送風機などがあげられます(騒音規制法施行令1条、別表第一)。
規制基準については、都道府県知事もしくは市長が環境大臣が定める「特定工場等において発生する騒音の規制に関する基準」の範囲内において時間及び区域の区分ごとに定めることとされています(騒音規制法4条1項)。
また、規制対象となる地域については、都道府県知事もしくは市長が住居が集合している地域、病院又は学校の周辺の地域その他の騒音を防止することにより住民の生活環境を保全する必要があると認める地域を指定します(騒音規制法3条1項)。
騒音規制法4条1項における「特定工場等において発生する騒音の規制に関する基準」は以下のように定められています。
午前6時から午前8時まで | 午前8時から午後6時まで | 午後6時から午後9時まで | 午後9時から翌日午前6時まで | |
第1種区域 | 45デシベル | 50デシベル | 45デシベル | 40デシベル |
第2種区域 | 50デシベル | 55デシベル | 50デシベル | 45デシベル |
第3種区域A | 55デシベル | 60デシベル | 55デシベル | 50デシベル |
第3種区域B | 60デシベル | 65デシベル | 60デシベル | 55デシベル |
第4種区域A | 60デシベル | 65デシベル | 60デシベル | 55デシベル |
第4種区域B | 65デシベル | 70デシベル | 65デシベル | 60デシベル |
なお、第1種区域とは、第1種低層住居専用地域及び第2種低層住居専用地域、第2種区域とは、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域及び準住居地域、第3種区域とは、近隣商業地域、商業地域及び準工業地域、第4種区域とは、工業地域をそれぞれ指しています。
また、Aは、学校、保育所、病院、診療所、図書館、特別養護老人ホーム、認定こども園など特に騒音から保護されるべき施設の敷地の周囲50メートルの区域と、第1種区域、第2種区域の境界線から15メートル以内の区域を指し、Bはそれ以外の区域を指します。
なお、「○○デシベル」がどれくらいの騒音なのかについてピンと来ない方は、下記記事をご参照ください。
②建設工事作業における規制|基準値85デシベルと時間帯に注意
建設工事作業における騒音の規制では、「特定建設作業」が規制対象とされています。
「特定建設作業」とは、建設工事として行なわれる作業のうち、著しい騒音を発生する作業であつて政令で定めるものをいいます(騒音規制法2条3項)。
「特定建設作業」として政令で定められているものの例としては、建設工事として行われるくい打機やブルドーザーを使用する作業などがあげられます(騒音規制法施行令2条、別表第二)。
ただし、その作業を開始した日に作業が終わるものは除外されるので、作業が1日で終わる場合には特定建設作業にはあたりません。
具体的な規制基準については、環境大臣が「特定建設作業に伴つて発生する騒音の規制に関する基準」として、騒音の大きさの「基準値」や作業の「時間帯」、日数、曜日などの基準を定めています。
また、規制対象となる地域については、工場や事業場における騒音の規制と同様「都道府県知事もしくは市長」が「住居が集合している地域、病院又は学校の周辺の地域その他」の騒音を防止することにより、住民の生活環境を保全する必要があると認める地域を指定します。
「特定建設作業に伴つて発生する騒音の規制に関する基準」は以下のように基準値・時間帯などが定められています。
基準値 | 作業禁止時間帯 | 最大作業時間 | 最大連続作業日数 | 作業を行わない日 | |
第1号に掲げる区域 | 85デシベル | 午後7時~ 午前 7時 | 10時間まで | 連続6日まで | 日曜日その他休日 |
第2号に掲げる区域 | 午後10時 ~ 午前6時 | 14時間まで |
なお、第1号に掲げる区域としては、①良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域、②住居の用に供されているため、静穏の保持を必要とする区域、③住居の用に併せて商業、工業等の用に供されている区域であって、相当数の住居が集合しているため、騒音の発生を防止する必要がある区域、④学校、保育所、病院、診療所、図書館、特別養護老人ホームの敷地の周囲おおむね80mの区域内があげられます。
また、第2号に掲げられる区域は、第1号に掲げる区域以外の区域を指します。
③自動車騒音の規制
許容限度
自動車騒音の規制については、自動車が一定の条件で運行する場合に発生する自動車騒音の大きさの許容限度を環境大臣が定めています(騒音規制法16条1項)。
指定地域における自動車騒音の要請限度
市町村長は、指定地域内における自動車騒音が環境省令で定める限度を超えていることにより、道路の周辺の生活環境が著しく損なわれると認めるときは、都道府県公安委員会に対し、道路交通法の規定による交通規制を執るべきことを要請するものとされています(騒音規制法17条1項)。
都道府県公安委員会が行うことができる交通規制には、「信号機や道路標識などの設置管理」や「交通整理、歩行者や車両などの通行の禁止」などがあげられます(道路交通法4条1項)。
環境省令における自動車騒音の基準は、以下のように定められています。
午前6時〜午後10時(昼間) | 午後10時〜午前6時(夜間) | ||
もっぱら住居の用に供される区域 | 1車線 | 65デシベル | 55デシベル |
主として住居の用に供される区域 | 1車線 | ||
もっぱら住居の用に供される区域 | 2車線 | 70デシベル | 65デシベル |
主として住居の用に供される区域 | 2車線 | 75デシベル | 70デシベル |
相当数の住居と併せて商業、工業などの用に供される区域 | – |
④深夜騒音等の規制
飲食店営業など深夜における騒音や、拡声機を使用する放送に関する騒音の規制については、地方公共団体が地域の自然的、社会的条件に応じて、営業時間を制限することなどにより必要な措置を講ずるようにしなければならないことが定められています(騒音規制法28条)。
たとえば、東京都では「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」においては、下記などが定められています。
- 拡声機の使用制限(条例129条、130条)
- 音響機器等の使用制限(条例131条)
- 深夜の営業等の制限(条例132条)
騒音規制法と罰則|違反したらどうなる?
騒音規制法に基づいて定められた規制基準に違反したとしても、直接何か罰則が科されるわけではありません。
しかし、騒音規制法では市町村長が必要に応じて騒音の「改善勧告や改善命令」をすることができ、改善命令に従わなかった場合には「懲役刑」や「罰金刑」が科されることが定められています。
つまり、騒音規制法では直接的な罰則はないものの、間接的な罰則により規制基準の違反に抑止効果をもたらしています。
具体的には、以下のような罰則が定められています。
工場や事業場における騒音の規制に違反した場合の罰則
市町村長は規制対象となる施設に対して、期限を定めて、騒音の防止方法の改善または特定施設の使用方法や配置の変更について改善勧告や改善命令を行うことができます(騒音規制法12条)。
そして、規制対象となる施設が改善命令に違反した場合には、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金が科せられます(騒音規制法29条)。
建設工事作業における騒音の規制に違反した場合の罰則
市町村長は規制対象となる建設作業について、期限を定めて、騒音の防止方法の改善または特定建設作業の作業時間の変更について改善勧告や改善命令を行うことができます(騒音規制法15条)。
そして、この改善命令に違反した場合には、5万円以下の罰金が科せられます(騒音規制法30条)。
条例に違反した場合の罰則
条例で定められた拡声機の使用制限(条例129条、130条)や音響機器等の使用制限(条例131条)、深夜の営業等の制限(条例132条)に違反した場合、知事は改善勧告をすることができ、その改善勧告にも従わない場合には、知事は違反行為の停止や施設の改善、騒音の防止方法の改善その他の必要な措置を命ずることができるとされています(条例139条1項)。
さらに、深夜営業の騒音について、改善命令に従わなかった場合には、知事はいつまでという期限を定めて、騒音の防止が必要な時間の営業又は作業の停止命令をすることができるとされています(条例139条2項)。