テレビのニュースや新聞記事などで「共犯」という言葉がよく使われます。
今回は「共犯」とは何かを、具体的な事例に触れながら、共犯の様々な種類と刑罰についてわかりやすく解説していきます。
共犯とは
「共犯」という言葉は、実は様々な意味を持っています。
その中でも最も広い意味での「共犯」とは、2人以上の人が、ある1つの犯罪に関与することを指します。
この「共犯」は、大きく分けて「必要的共犯」と「任意的共犯」に分けることができます。
必要的共犯
「必要的共犯」とは、法律で初めから複数人が犯罪に関わっていることが予定されている犯罪のことです。
具体的には、多数の人が関わることが予定される内乱罪・騒乱罪や、2人の関与が予定される重婚罪・賄賂罪などがこれに当たります。
任意的共犯
「任意的共犯」とは、1人の行為者によって犯されると想定して定められている犯罪を、実際には2人以上の人が関与して実行されるケースを指します。
具体的には、殺人罪や窃盗罪は1人でも犯罪を犯すことができますが、このような犯罪を複数人で犯す場合がこれに当たります。
任意的共犯
「任意的共犯」は、「共同正犯」「教唆犯」「幇助犯」の3つに分けることができます。
以下、この3つの共犯について具体的な例を挙げながら詳しく見ていきましょう。
共同正犯
「任意的共犯」に属する3つの共犯のうち、「共同正犯」とは、「2人以上共同して犯罪を実行した」場合のことを指します。
刑法第60条(共同正犯)
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
つまり共同正犯は、自分が直接実行しなかった行為の結果生じた結果についても、実際に実行したものと同様の刑事責任を負うことになります。
例えば、AさんとBさんが共に拳銃を使用し、Cさんの殺害を試みたとします。
このとき、Aさんの打った弾丸は急所から外れ、Bさんの打った弾丸がCさんの心臓に命中して死亡したとしても、Aさんは正犯としてBさんと同様の刑事責任が問われます。
教唆犯
「教唆犯」とは、「人を教唆して犯罪を実行させた」場合のことを指します。
刑法第61条1項(教唆)
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
さらにこの教唆犯を教唆することは「間接教唆」と呼ばれ、前述の刑法第61条2項にて「教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。」と定められています。
つまり、教唆犯も間接教唆をした者も正犯とされ、同様の刑事責任を負うことになります。
この間接教唆を行った者に対してさらに教唆した場合は「再間接教唆」と呼ばれ、この「再間接教唆」に対するさらなる間接教唆は「連鎖教唆」と呼ばれています。
「連鎖教唆」を行った者に対する処罰は明確には定められていませんが、判例を参照すると罰することが肯定されています。
幇助犯
「幇助犯」とは、「正犯を幇助した」場合のことを指します。
幇助とは、正犯でない者が、正犯による犯罪が実行されやすくすることです。
凶器などの調達を行う物理的な幇助のほか、犯罪を犯すにあたって正犯の気持ちを盛り上げるなどの精神的な幇助もあげることができます。
例えば、
- AさんがBさん殺害に使用する包丁をCさんが調達してBさんに渡した場合
- AさんがBさんの殺害を止めようと悩んでいるときに、CさんがBさんを殺害することによるメリットを話すなどしてAさんを勇気づけたとき
このような場合、Cさんのしている行為は「幇助」となります。
共犯と刑罰
殺人、強盗、詐欺…あらゆる犯罪において犯人が1人だけで犯罪行為を行ったわけではないケースが多くあります。
そのような場合、「共犯」に対してはどのような刑罰が科せられるのでしょうか?
殺人
まずは「殺人罪」を例にとって詳しく解説していきましょう。
共同正犯
2人以上が協力して殺人を実行した場合、殺人の共同正犯として、全てのものが正犯として刑罰を負うことになります。
つまり、Aさんの殺害を共に企てたBさんとCさんは、仮にどちらか一方の行為が致命傷となってAさんが命を落としたとしても、2人とも殺人罪の刑罰である「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」(刑法第199条)が科せられます。
教唆
他人に殺人を行うことを唆し、それに基づいて殺人が実行された場合、殺人における教唆の罪が問われます。
「殺人教唆」が成立するためには、
- 実行犯が殺人を実行していること
- 教唆した者の指示・命令・暗示などがきっかけとなって、実行犯が殺意を初めて持ったこと
が必要です。
つまり、被害者が命を落とさずに済んだ場合には「殺人」にはなりません。
さらに、もともとAさんに対する殺意を持っていたBさんに対して、Cさんが殺人の指示をした結果、Bさんが殺人を実行してしまったような場合にも、Cさんの行為は「殺人の教唆」とはなりません。
殺人を教唆した罪で有罪となると、刑法第61条1項にて「実行犯と同じ刑罰が科せられる」ことが定められており、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」(刑法第199条)となります。
幇助
他人の殺人に手を貸した場合、殺人罪における幇助の罪が問われます。
「殺人幇助」が成立するためには、
- 殺害することを承知のうえで行為を手伝ったこと
- 手伝った行為が殺人の実行に役立ったこと
が必要です。
つまり、Aさんをロープを使って殺害しようと試みたBさんがCさんの店で購入したとします。CさんはBさんがロープを殺人に使うとは知りませんので、Cさんの売ったロープが殺害に役立ったとしてもCさんは幇助の罪には問われません。
BさんがAさんを殺害しようとしていることを知りながら、ロープや包丁など殺人のための道具を提供し、かつそれが実際に殺人に役立ったことが必要となります。
刑法62条1項(幇助)にて、「正犯を幇助した者は、従犯とする。」と定められており、刑法63条(従犯減軽)にて「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。」と定められています。
つまり殺人の幇助を行った者は、殺人を実行した者の、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」(刑法第199条)を軽減した刑罰を負うこととなります。
強盗
次に「強盗」の場合を見ていきましょう。
共同正犯
複数人で「強盗」を行った場合、強盗罪における共同正犯の罪が問われます。
たとえば、Aさんが銀行強盗を行うにあたって、Bさんが銀行の外で見張りをしていたとします。
この場合、AさんとBさんは銀行に実際に押し入るか銀行の外で見張るかという違いはあるものの、強盗を成功させるための役割分担をしたにすぎず、BさんもAさんと同様の刑罰を負います。
強盗は、その犯行内容や被害状況によって刑罰が異なりますが、「強盗罪」で有罪判決を受けた場合には「5年以上の有期懲役」となります。
教唆
強盗を行うように促す発言や行動をした場合、強盗における教唆の罪を問われます。
例えば借金の返済ができず困っているAさんに対し、Bさんが「銀行強盗をしたらどうだ?」と提案してAさんが実際に実行した場合、Bさんは銀行を教唆したとして、実行犯であるAさんと同じく「5年以上の有期懲役」となります。
幇助
強盗が成功するための手助けを行った場合、強盗における幇助の罪を問われます。
共同正犯と幇助の違いは、幇助犯は実際に犯罪に加担はしないという点です。
例えば、Aさんが銀行強盗をしようとしていることを知りながら、Bさんが銀行強盗の際に使用する目出し帽や催涙スプレーなどを提供した場合、Bさんは幇助犯として正犯の「5年以上の有期懲役」を軽減した刑罰を受けることになります。
その他の罪
詐欺や業務上横領についても、基本的には殺人や強盗と同じく、
- 共同正犯として有罪→正犯と同罪
- 教唆として有罪→正犯と同罪
- 幇助→正犯の刑罰を減刑
となります。
具体的には「詐欺」の共犯として、共同正犯・教唆の罪を問われた場合には、「10年以下の懲役(刑法第246条)」となります。
幇助の罪を問われた場合には「10年以下の懲役」が減刑された刑罰を負うことになります。
「業務上横領」の共犯として、共同正犯・教唆の罪を問われた場合には、「10年以下の懲役(刑法第253条)」となります。
幇助の罪を問われた場合には「10年以下の懲役」が減刑された刑罰を負うことになります。