会社のお金を使ってしまった…!
「業務上横領で逮捕されてしまうのでは…?発覚しない?」と不安を抱えている方はいらっしゃいませんか?
業務上横領をした事実が発覚してしまったとしても、必ずしもすぐに逮捕されるとは限りません。しかし、もしもまだ業務上横領がバレていない場合であっても、業務上横領は必ずと言っていいほど発覚します。
今回は、業務上横領とはいったい何なのか?刑罰の相場から業務上横領がバレる流れに至るまで、詳しく解説していきます。
業務上横領とは?
業務上横領について解説して行く前に、まずは「横領」という言葉の意味について確認していきましょう。
「横領」とは、委託を受けたうえで自分が占有している他人の物を、自分の物にしてしまうことを指します。
横領罪が成立するためには、(他人のものだとはわかっているけど、自分のものにしてしまおう)という「不法領得の意思」が必要となります。
ここで横領罪は、「単純横領罪」「業務上横領罪」「占有離脱物横領罪(遺失物横領罪)」の3つに分けることができ、今回解説する「業務上横領」は横領罪のうちの1つとなります。
「業務上横領罪」とは、業務として他人の物を預かっている人が、その物を横領してしまったときに成立します。
つまり、業務上会社や顧客などから預かっている財物に着服し、自分のものとしてしまうことです。
「横領罪」と「窃盗罪」の違いは?
では、「横領罪」と「窃盗罪」とは何が異なるのでしょうか?
「横領罪」と「窃盗罪」では、どちらも人の財産を奪うという点においては共通しています。
異なるのは、奪ってしまった財産が、相手の手元にあるものかそうでないかという点です。
「窃盗罪」が、相手の手元にある財産を奪うことによる罪であるのに対して、「横領罪」は相手の手元にはない財産を奪う罪です。
「窃盗罪」と「横領罪」の違いについては、刑法第235条と第252条を見てみましょう。
・第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
・第252条
自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
「窃盗罪」について述べられている第235条では「他人の財物」と書かれているのに対して、「横領罪」について述べられている第252条では「自己の占有する他人の物」と書かれており、ここに1番の大きな違いを見ることができます。また刑期も異なります。
業務上横領の事例
具体的にはどのような時に「業務上横領」となってしまうのでしょうか?
業務上横領の事例は様々なものがありますが、よくある事例を見ていきましょう。
事例1.会社の経理担当者による横領
・会社の経理担当者が会社のお金を自分の口座に振り込んで横領するケース
・会社の経理担当者が第三者と共謀し、架空の請求書を出してもらって会社の預金口座から第三者の口座に送金し、そのお金の一部または全額を自分の口座に還流させるケース
事例2.集金担当者による横領
・顧客から集金した現金を横領し、会社に対しては未収金として報告するケース
事例3.店長・支店長などによる現金の横領
・売上金の管理など店舗の経理を管理する店長や支店長が、会社に売上額を少なく申告し、その差額を横領するケース
事例4.郵便切手管理者による切手の横領
会社で購入し保管している郵便切手を管理する者が、会社に対しては使用済みと偽り、郵便切手を横領して、現金に換金するケース
これらの事例はあくまで一部であり、業務上横領にはまだまだ様々な事例があります。
しかし、このようなよくある業務上横領の事例は、「現金の横領」「預金の横領」「切手・印紙の横領」の3つに分けることができます。
業務上横領の刑罰相場|懲役か執行猶予か
業務上横領罪には、罰金刑がありません。
法定刑は10年以下の懲役とされており、執行猶予がつかなかった場合には最長で10年もの間刑務所に入らなければならず、比較的重い罪と言えるでしょう。
ここで実際の刑罰の決定に最も影響を及ぼすのは、横領した金額です。
横領した金額ごとの量刑のおよその目安を見てみましょう。
・被害金額100万円以下の少額の場合:執行猶予
・被害金額500万円:2年の実刑
・被害金額1000万円:2年6か月の実刑
・被害金額3000万円:3年の実刑
少額の方が刑罰も軽くなります。そのほか、犯人の前科の有無や横領をしてしまった理由などが総合的に考慮されて刑罰が決まります。
業務上横領は親告罪?非親告罪?
業務上横領罪は非親告罪ですので、理論上では告訴がない状態でも起訴される可能性のある罪です。
しかし業務上横領罪は、基本的に会社の内部で起きることが多い犯罪です。
そのため、被害申告がなければ通常捜査機関に事件が発覚する可能性は極めて低いと言えます。
つまり、業務上横領罪は非親告罪でありながら、被害届もしくは告訴状が提出されなければ、警察から捜査を受けることも、逮捕・起訴されることもあまりないということです。
会社としても、自社の社員が横領をしたという事実を公にしたくないと考える場合が多く、警察沙汰にしたくないという理由から被害申告をしないこともめずらしくありません。
会社内での話し合いなどで話がまとまった場合には、逮捕や起訴、裁判になることはありませんので、もちろん前科がつくこともありません。
もしも業務上横領をしてしまった場合には、まずは被害届や告訴状が提出されることをできる限り回避した方が良いでしょう。
業務上横領はどのようにバレるのか?
実際、業務上横領は必ずと言っていいほどバレてしまうと考えてください。
よくテレビや新聞などでも、業務上横領罪により逮捕されたというニュースを見たことがある方もいらっしゃると思います。
では業務上横領はどのような流れでバレてしまうのでしょうか?
横領の回数・金額が増えていく
テレビや新聞などで取り上げられるような業務上横領罪では、何億、何十億といった巨額な資金を横領している場合もあります。
しかしごく一般的な普通のサラリーマンであれば、いきなり何億円も横領してしまうことは少ないと言えます。
それよりも、まずはじめはほんの少しの金額を横領し、それがバレなかったことをいい事に、もう一回だけもう一回だけと横領を繰り返してしまったというケースがよくある事例の1つです。
さらにそのうち、1回あたりに横領する金額も上がっていってしまうのです。
このようにして横領の回数も金額も次第にエスカレートしていき、よほどルーズな会社でない限りは、会社の手続きや経理上目立ってしまってバレてしまうというわけです。
担当者が変わることによりバレる
業務上横領をするには、横領するものが現金・預金・切手のいずれであったとしても、通常の手続きではない不自然な処理を行うことになります。
このような不自然な処理は、必ずといっていいほど社内の関係者に発見されてしまいます。
そのなかでも、長年にわたって1人の社員が経理を担当していたにも関わらず、担当者が変わったことで不正が急に見つかる、というのも実はよくあるパターンなのです。
もちろん横領している本人が担当している限り、横領を隠し通せるというようなケースも生じ得ます。
しかし、これはあくまで「横領している本人が担当している限り」ということです。
1つの会社に籍を置いている以上、絶対に人事異動が起こらないという保証はありません。
さらに事故や病気などの一身上の都合によって長期の休みを取った場合には、誰かが本人の代わりに仕事を行うことになり、不正がバレてしまうというケースもよくあります。
そして、自営業ではなく会社勤めである以上、いずれは定年を迎える日がやってくるのです。
そのため、最後まで横領を隠し通すということはほとんど不可能と言って良いでしょう。
会社との示談は可能?
業務上横領が会社にバレてしまった場合、もしも逮捕されてしまえば10年以下の懲役を受けることとなります。
しかし、逮捕前に示談交渉を進めることによって、逮捕や前科を免れることができる可能性もあります。
一般的に業務上横領における示談とは、横領したお金を返済(または今後計画を立てて返済していくという約束)して謝罪をし、会社と和解することを言います。
会社としても警察沙汰にしたくないという考えで、示談を進める会社も多いです。
ここで示談金は、横領した額が示談金となるケースが比較的多いと言えます。
しかし実際の示談金の額は、事件当事者の合意によって決められます。
そのため、横領した金額や会社の方針によっては、横領したお金の金額に加えて、遅延損害金や迷惑料が追加されるケースもあります。
示談金は基本的には一括で支払うものとされています。
しかし横領してしまった額が高額な場合には、現実的に一括では支払うことが難しい…という場合も多いかと思います。
そのような場合には、会社側と交渉をし、示談金を分割で支払うことを認めてもらわなくてはなりません。
交渉方法としては今支払える精一杯の金額を頭金として金額を用意し、残りの金額の分割方法については、会社側としっかりと相談しながら返済計画を立てることが大切です。
業務上横領の時効は何年?
業務上横領の時効は、7年と決められています。
しかし、業務上横領をして7年が経ち時効が成立した後であっても、責任を絶対に問われないというわけではありません。
時効には、実は「刑事上の時効」と「民事上の時効」という2種類が存在し、それぞれ時効期間が違います。
そのため、業務上横領をしてしまってから7年が経過して時効が成立し、刑事上の責任が無くなった場合にも、民事上の責任として損害賠償を求められる可能性があるのです。
具体的には、「業務上横領罪」の民事上の責任は「不法行為」となり、この時効は3年と定められています。
ここで「不法行為」の時効である3年の数え方は、被害者が横領されたと気付いてからカウントすることになります。
つまり、業務上横領を行なった時点から、被害者が横領されていたことに気づいた日まではカウントしないということです。
ただし、万が一被害者が横領に気がつくまで長期間を要し、業務上横領をしてから20年が経過してしまった場合には、刑事的にも民事的にも責任を求められるということはありません。
業務上横領罪を犯した場合、家族にも責任が及ぶ?
業務上横領をした場合、家族にも責任があると判断されるケースは、業務上横領をするにあたって家族が共謀していた場合のみです。
当該の業務上横領が家族と共謀して行ったという事実がない限り、家族にまで責任が及ぶことはありませんので安心してください。
例えば、夫が会社のお金を横領して生活費として妻に渡してしまい、妻はそれが会社から横領したお金だとは知らずに使ってしまった場合にも、妻が業務上横領罪に問われる可能性は極めて低いと言えます。
このようなケースの場合、もしも仮に被害を受けた会社が、夫の家族に対して横領されたお金の返済を求めて訴訟を起こしたとしても、会社の請求は通らない可能性が高いでしょう。
まとめ
会社のお金をすでに横領してしまったという方は、発覚するかしないか不安な人が多いでしょう。すぐに会社に正直に話し、誠意を持って謝罪することが大切です。
どんなに誠実に謝ったとしても、会社を解雇されたり、損害賠償を求められたりする可能性はあります。
しかし自ら会社に申告することなく業務上横領がバレてしまった場合よりは、示談となる可能性も高くなり、裁判となって前科がついてしまう可能性が低くなると言えるでしょう。
とはいっても、会社のお金を使ってしまった以上、どのようにして会社に伝えれば良いのか、さらにどのように償えば良いのかなど分からないこともたくさんあるかと思います。
そのような場合にはできるだけ早く弁護士に相談し、今後の対応を共に考えてもらうことをおすすめします。