犬や猫が放し飼いにされている状態は、近隣住民に危険が発生する可能性があり、非常に迷惑となります。
特に放し飼いの犬や猫が他人を噛んでしまったり、人を殺してしまったり、他人の物を壊してしまったりした場合には、飼い主に法的責任が発生する場合があります。
この記事では、犬や猫を放し飼いにすることの違法性や、トラブル事例・通報先、対応などについて、専門的な観点から解説します。
犬・猫の放し飼いに関する法律・条例の規制について
犬や猫の放し飼いについては、「動物の愛護及び管理に関する法律」(通称:動物愛護管理法)という法律や、都道府県が定める「動物の愛護及び管理に関する条例(通称:動物愛護管理条例)」によって一定の規制がかけられています。
動物愛護管理法の規定
動物愛護管理法7条1項および3項は、以下のとおり定めています。
(動物の所有者又は占有者の責務等)
第七条
1 動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。この場合において、その飼養し、又は保管する動物について第七項の基準が定められたときは、動物の飼養及び保管については、当該基準によるものとする。
2 (略)
3 動物の所有者又は占有者は、その所有し、又は占有する動物の逸走を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(動物愛護管理法7条1項、3項)
このように、動物の飼い主には法律上、動物が他人に危害を加えたり、飼っている動物が逃走したりしないようにする努力義務が定められています。
放し飼いの状態では、こうした努力が行われていないと考えられますので、飼い主は同規定による努力義務に違反しています。
ただし、あくまでも努力義務であることから、これらの規定の違反に対して罰則は定められていません。
動物愛護管理条例でより厳格な規制も
都道府県が定める動物愛護管理条例では、飼育している動物の放し飼いについて、動物愛護管理法の規定よりもさらに厳しい規定を置いている場合があります。
たとえば、東京都の動物愛護管理条例9条1号では、以下のように規定されています。
(犬の飼い主の遵守事項)
第九条 犬の飼い主は、次に掲げる事項を遵守しなければならない。
一 犬を逸走させないため、犬をさく、おりその他囲いの中で、又は人の生命若しくは身体に危害を加えるおそれのない場所において固定した物に綱若しくは鎖で確実につないで、飼養又は保管をすること。ただし、次のイからニまでのいずれかに該当する場合は、この限りでない。
イ 警察犬、盲導犬等をその目的のために使用する場合
ロ 犬を制御できる者が、人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない場所並びに方法で犬を訓練する場合
ハ 犬を制御できる者が、犬を綱、鎖等で確実に保持して、移動させ、又は運動させる場合
ニ その他逸走又は人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない場合で、東京都規則(以下「規則」という。)で定めるとき。
(東京都動物愛護管理条例9条1号)
このように、動物愛護管理条例においては、放し飼いが原則として明文で禁止されているケースもあります。
措置命令について
また、同条例30条には「措置命令」に関する定めもあります。
同規定に基づき、東京都知事は、危険な状態で放し飼いにされている犬や猫を施設内で飼養するよう命令を行うことができます。
この命令に反して放し飼いを続けると、5万円以下の罰金に処せられることがあります(同条例39条3号)。
東京都以外の動物愛護管理条例においても、動物愛護管理法の規定に上乗せして、動物の放し飼いを厳格に規制しているケースが見られます。
■参考リンク
東京都動物の愛護及び管理に関する条例
犬・猫の放し飼いによるトラブルの例
犬や猫を放し飼いにすると、近隣住民や生活環境との関係でさまざまなトラブルが引き起こされてしまいます。
以下ではその例を解説します。
①他人の物を壊してしまう
放し飼いの犬や猫が近所を徘徊しているうちに、植木鉢など他人の物を壊してしまうケースがあります。
特に盆栽など高価なものを壊してしまった場合には、飼い主が高額の損害賠償責任を負担する可能性があるので注意が必要です。
②他人を噛んでケガを負わせてしまう
放し飼いの犬や猫が他人を噛むなどしてケガをさせてしまった場合、深刻な問題になります。
後述のとおり、飼い主は刑事上・民事上の法的責任を負担するなど、取り返しのつかない事態に発展してしまう場合があります。
③夜になっても鳴きやまずに騒音被害が発生する
放し飼いの犬は飼い主の世話が行き届きにくいため、昼夜を問わず吠えて騒音被害を発生させるケースがあります。
特に深夜の鳴き声は大いに近所迷惑となり、近隣住民から飼い主に対してクレームが殺到することもしばしばです。
放し飼いの犬・猫が他人にケガをさせてしまった場合の飼い主の法的責任
放し飼いの犬や猫が暴走して、他人を噛んだりしてけがをさせてしまった場合、飼い主は刑事・民事上の法的責任を負担します。
刑事責任:過失傷害罪
放し飼いの犬や猫をしっかり監視・管理せず、他人をケガさせてしまった飼い主の行為は、過失傷害罪に該当します(刑法209条1項)。
過失傷害罪は親告罪ですので、被害者の告訴がある場合に限りますが(同条2項)、「30万円以下の罰金または科料」に処される可能性があります。
民事責任・裁判:動物の占有者等の責任
民法718条1項は、次のように定めています。
(動物の占有者等の責任)
第七百十八条 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
(民法718条1項)
同規定により、飼い主は被害者が負った「ケガの治療費や慰謝料などの損害を賠償する義務」を負います。
放し飼いの犬・猫が他人の物を壊してしまった場合の飼い主の法的責任
次に、放し飼いの犬や猫が暴れて他人の物を壊してしまった場合はどうでしょうか。
刑事責任は負わない
他人の物を壊す行為を罰する刑法上の犯罪としては、器物損壊罪(刑法261条)があります。
しかし、器物損壊罪は犯罪の故意が要件とされています。
飼い主としては、犬や猫に他人の物を壊させることを意図して放し飼いにしていたわけではないでしょうから、器物損壊罪は成立しません。
また、過失により他人の物を壊す行為を罰する法律は存在しません。
したがって法律上は、飼い主に刑罰が科されることはないでしょう。
ただし、条例で特別の定めがある場合には、一定の刑事責任を負うケースがあるので注意が必要です。
民事責任・裁判:動物の占有者等の責任
放し飼いの犬や猫が他人の物を壊したケースでも、民法718条1項に定められる動物の占有者等の責任の規定が適用されます。
したがって、飼い主は被害者に対して、犬や猫が壊した物の弁償代などの損害を賠償する責任を負います。
放し飼いの犬が騒音被害を発生させた場合の飼い主の法的責任
特に犬を放し飼いにしているケースでは、昼夜問わず犬が吠え続けて、近隣住民が疲れてしまいます。
放し飼いの犬の鳴き声により周辺住民が病気になってしまった場合などには、飼い主が民法上の損害賠償責任を負担する可能性があります。
犬による騒音被害については、以下の記事も併せて参照してください。
犬・猫の放し飼いを発見した際の苦情・通報先・対処
犬や猫が放し飼いにされている状態では、近隣住民に被害を及ぼす可能性があります。
放し飼いを発見したら、適切な機関に通報して、飼い主に対して係留などの対処の措置を求めましょう。
以下では、犬や猫の放し飼いを発見した際の苦情・通報先について解説します。
マンションの管理会社や大家
住んでいるマンションの敷地内で犬が放し飼いにされているようなケースでは、マンションの管理上の問題として対応する必要があります。
この場合、マンションの管理会社や大家に連絡をして対応してもらうのが良いでしょう。
保健所
放し飼いの犬や猫は感染症の感染源にもなり得ることから、保健所による指導が行われるケースもあります。
保健所に連絡をして、飼い主に対して放し飼いをやめるよう指導してもらえば、飼い主も考え方を改めるかもしれません。
都道府県や市区町村の窓口
動物愛護管理法9条に基づき、都道府県や市区町村には、動物が他人に迷惑を及ぼさないよう、飼い主に対して指導を行う権限が認められています。
したがって、都道府県や市区町村に通報することも一つの選択肢となります。
警察
犬や猫の放し飼いが放置されていると、他人にケガを負わせたり、他人の物を壊したりする危険性がある状態が発生します。
こうしたケースでは、過失傷害罪などの犯罪行為が発生し得る状態が存在するため、警察が犯罪予防活動の一環として対応してくれる場合があります。
まとめ
犬や猫の放し飼いは、近隣の生活環境や住民の生命・身体に対して悪影響を及ぼす可能性があるため、法律上大いに問題があるといえます。
もし近隣で犬や猫が放し飼いにされているのを発見した場合には、他の近所の人や公的機関などと連絡を取り、飼い主に対して放し飼いをやめるように説得しましょう。