野良猫の餌やりと法律|餌やりは違法?通報先は?裁判例など解説

隣人トラブル

公園や道路で、野良猫に餌やりをしている人を見かけることがあります。

この野良猫への餌やりは法律上、問題ないのでしょうか。また、野良猫への餌やりが迷惑な場合、どこに相談すればいいのでしょうか。

この記事では、野良猫への餌やりにまつわる法律問題について、実際の裁判例を踏まえながら、分かりやすく解説していきます。

野良猫への餌やりは違法?法律や条例はある?

法律はある?

動物の適切な取り扱いなどについて定めた法律として、「動物の愛護および管理に関する法律」という法律があります。

一般的には「動物愛護法」と呼ばれますので、この記事でも「動物愛護法」と呼びます。

動物愛護法第25条は次のように規定しています。

<第25条>
「都道府県知事は、動物の給餌に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によって周辺の生活環境が損なわれている事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、必要な指導・勧告・命令をすることができる。」

上記、第25条により、野良猫に餌やりをすることで、「周辺の環境を悪化させた場合」には、違法となります。

野良猫の餌やりをしている人に対して、都道府県知事はその餌やりをやめるよう、指導・勧告・命令をすることができます。

また、第25条に基づく「命令」に従わなかった場合には、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(第46条の2)。

条例はある?

自治体によっては、野良猫への餌やりについて、条例で規制しているところがあります。
以下、野良猫への餌やりについて定めている条例を紹介します。

京都市の条例

京都市には、「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例」があります。

この条例第9条は、次のように規定しています。

<第9条>
「市民等は、所有者等のない動物に対して給餌を行うときは、適切な方法により行うこととし、周辺の住民の生活環境に悪影響を及ぼすような給餌を行ってはならない。」

まず、野良猫は「所有者等のない動物」にあたります。

そして、第9条は野良猫への餌やり自体を禁止しているのではなく、野良猫への餌やりは「適切な方法」で行うことを要求しています。

そのため、この条例で禁止される行為は、周辺住民の生活環境に悪影響を及ぼすような、不適切な方法による餌やり行為となります。

また、この条例に違反した者に対しては、5万円以下の罰則を科すこととされています。

和歌山県の条例

和歌山には、「和歌山県動物の愛護及び管理に関する条例」があります。

この条例第14条では、自己の所有する猫以外の猫への給餌等を行う者の遵守事項、すなわち、野良猫への餌やりを行う者が「守るべきルール」を、次のように定めています。

<遵守事項>
①給餌等を行う場所の周辺住民への説明に努めること。
②生殖することができない猫に給餌等を行うこと。
(※「生殖することができない猫」とは、幼齢の猫や不妊去勢手術をし、施術済であることを示す措置をした猫のことをいいます。)
③給餌等は時間を決めて行い、その場を汚したり、餌を放置したりしないこと。
④排せつ場(トイレ)を設置し、トイレのフン尿を適正に処理すること。

和歌山県では、野良猫への餌やりを禁止するのではなく、野良猫への餌やりについて、ルールを具体的に定めています。

このルールに違反した場合には、まずは十分な指導を重ねることで、適切な対応をとるよう、促されます。そして、十分な指導をしても改まらない場合に限って、罰則が科されることとなります(第23条第1項、第26条第4項)。

東京都荒川区の条例

東京都荒川区には、「荒川区良好な生活環境の確保に関する条例」があります。

この条例第5条は、次のように規定しています。

<第5条>
「区民等は、自ら所有せず、かつ、占有しない動物にえさを与えることにより、給餌による不良状態を生じさせてはならない。」

条例第5条は、野良猫への餌やりによって「不良状態」を生じさせることを禁止しています。

ここにいう「不良状態」とは、周辺住民の生活環境に被害が生じていると認められる状態をいいます(第2条柱書)。

たとえば、①エサを目当てに集まってくる野良猫の鳴き声、②エサの残りカスやエサを目当てに集まってくる野良猫のフン尿による臭気、③エサを目当てに集まってくる野良猫の毛、④エサを目当てに集まってくる野良猫の威嚇行為、などによって「被害」が生じている場合を指します(第2条第5項各号)。

そして、第5条に違反した者に対しては、区長が不良状態をやめるよう勧告・命令することになり、この区長の命令に従わなかった者に対しては、5万円以下の罰金に処することとしています(第8条、第14条)。

自分の住んでいる自治体の条例を確認

ほとんどの条例が、野良猫の餌やり行為自体は禁止しておらず、餌やりのルールを定めたり、周辺住民の生活環境を害した場合に限り違法とするような規制を定めています。

ただ、どのようなルールを定めているかは自治体によって異なります。

罰則を定めるか否かも自治体によって様々です。

そのため、野良猫の餌やりによって迷惑を被っている場合には、自分の住んでいる自治体の条例を確認する必要があります。

野良猫の餌やりをしている人に対して、損害賠償を請求できる?

野良猫への餌やりが原因で被害を被っている場合には、その餌やりをしている人に対して、損害賠償を請求することができる可能性があります。

野良猫の餌やりは、動物愛護の観点から行われているものですので、餌やり行為自体が悪いとは直ちにいえません。しかし、餌やりによって、他人に迷惑をかけたり被害を生じさせることは許されません。

以下、実際に野良猫の餌やりをしている人に対して、損害賠償請求が認められた裁判例を3つ紹介します。

福岡地方裁判所 平成22年9月17日判決

<事案>
Yは約8カ月もの間、自宅玄関前に餌を置くなどして、複数の野良猫への餌やりを継続していました。
Yによる餌やり行為が原因で、周辺に野良猫が居つくようになり、野良猫は周辺住民の庭などに入り込んで、フン尿をするなどして、周辺住民に被害を与えました。

そこで、周辺住民Xら18人がYに対し、①餌やりの差止め請求及び、②約160万円の損害賠償を請求しました。

<判決>
まず裁判所は、「Yは野良猫を愛護する思いから餌やりをしているとみられ、直ちに非難されるべきものではない」として、Yの行動に一定の理解を示しました。

そのうえで、「Yは野良猫が居ついており、周辺住民に迷惑を及ぼす可能性があることを十分認識できたはずであるのに、野良猫のフン尿などによる周辺住民への被害防止の対策をとらなかった」として、Xらの請求を一部認めました。

結論として、裁判所はYに対し、損害賠償として55万円の支払を命じました。

2.東京地方裁判所 平成22年5月13日判決

<事案>
Yは、庭付き2階建てのテラスハウス型集合住宅で、野良猫への餌やりを継続的に行っていました。Yが餌やりをする野良猫は、多い時で18匹にも及んでいました。

Yは野良猫に段ボールを与えるなどして、飼育の域にまで達しており、野良猫のフン尿による悪臭の被害を、集合住宅に住む住民に生じさせました。
具体的には、住民の洗濯物に野良猫のフン尿の異臭が付いたり、集合住宅の庭の芝が枯れてしまうといった被害が生じました。

住宅管理組合は、Yに対し、何度も野良猫の餌やりをやめるよう注意しましたが、Yは聞く耳をもたなかったため、住宅管理組合規約に違反するとして、Yに対し、①野良猫への餌やりの中止と、②損害賠償645万円の請求をしました。

<判決>
裁判所は、住宅管理規約に、動物飼育禁止条項、迷惑行為禁止条項があり、Yの野良猫への餌やり行為は、管理組合規約違反であるとしました。

Yは、「野良猫への餌やりを止めることは虐待にあたり、動物愛護法に反する。」と主張しましたが、裁判所は野良猫への餌やりを中止しても動物愛護法には違反しないとして、Yの主張を退けました。

結論として、裁判所はYに対し、①野良猫への餌やり行為の中止及び、②204万円の損害賠償の支払いを命じました。

※なお、この裁判例は、被告Yが将棋の元名人であったこともあり、社会的な注目を集めました。

3.神戸地方裁判所 平成15年6月11日判決

<事案>
Y夫婦は、自宅の近くで毎日のように継続して野良猫への餌やりをしていました。
この近くで居酒屋を営んでいたX親子は、この餌やりが原因で、野良猫のフン尿により悪臭被害を受けているとして、Y夫婦に野良猫の餌やりをやめるよう注意をしました。

すると、Y夫婦は逆切れをして、飼い犬をわざと吠え続けさせたり、大音量のラジカセで音楽を流すなどして、X親子に対して騒音による嫌がらせを行いました。

そこで、X親子はY夫婦に対して、共同不法行為に基づく損害賠償の請求をしました。
すると、今度はこの損害賠償請求に腹を立てたY夫婦は、X親子の悪口を言いふらすなど、名誉棄損行為にあたる行為を行ってきました。

そのため、これについてもX親子は、Y夫婦に対し、名誉棄損に基づく損害賠償を請求しました。

<判決>
裁判所は、Y夫婦による、①X親子の営む居酒屋に対する営業妨害、②故意による騒音の不法行為、③X親子に対する名誉棄損行為の全てを認め、これらによりX親子の被った被害は受忍限度を超えるとしました。

そして、裁判所はY夫婦に対して、416万円の損害賠償の支払いを命じました。

無責任な野良猫の餌やりを防止するにはどうすればいい?

野良猫の餌やり防止ポスターを貼ることで、無責任な餌やりを防止することが考えられます。

自治体によっては、餌やり防止ポスターを無料で配布しているところがあります。

たとえば、福岡県では「ノラ猫への無責任な餌やり防止ポスター」を市町村及び県保健福祉環境事務所にて配布しており、公民館や公園等で掲示するよう呼びかけています。

このポスターの内容は、①野良猫の餌やりをする人には責任があるということ、②餌を与える場合には、不妊去勢手術、餌の食べ残しの片づけ、糞尿の清掃をすること、が記載されています。

ポスターを貼ってみようと思う場合には、一度お住いの自治体に問い合わせてみることをオススメします。

野良猫の餌やりが迷惑な場合、どこに相談すればいい?

餌やりをやめるよう、直接要求するのは避けるのが無難

野良猫の餌やりをしている人に、餌やりをやめるよう直接注意すること自体は問題ないのですが、餌やりを注意されたことに腹を立てて、暴行事件へと発展したケースが実際にあります。

そのため、直接注意するのはなるべく避けることが無難です。

また、野良猫の餌やりが法律上違法となるのは、あくまで「周辺の生活環境を悪化した場合」です。条例も原則として野良猫の餌やりは認めており、ただルールを定めているにすぎないので、適切に野良猫の餌やりをしている場合にまでうるさく注意をすると、トラブルに発展する可能性があります。

自治体に相談をする

野良猫の餌やり行為によって、迷惑を被っている場合には、お住いの自治体に相談をしましょう。
自治体によりますが、「生活環境」を担当する部署が相談窓口になる場合が多いです。

野良猫の餌やりにより被害が出ている場合には、餌やりをしている人に対して、餌やりをやめるよう、指導・勧告・命令など適切な対応を行ってくれる可能性があります。

弁護士に相談をする

野良猫の餌やりが原因で、自宅などに重大な被害が生じている場合には、弁護士など法律の専門家に相談をしましょう。

裁判例のように、野良猫の餌やりをしている人に対して、餌やりの差止め請求や損害賠償請求ができる場合があります。

まとめ

野良猫の餌やりは、野良猫の保護という観点から行っている人が多いと思いますが、餌やりよって異臭を放ち、周辺の生活環境を悪化させた場合には、法律に違反し、違法となります。

条例では、野良猫の餌やりについてルールを定めていることがありますので、適切な餌やりでなければ、条例に違反することになります。

野良猫の餌やりが原因で、被害を被っている場合には、自治体だけでなく弁護士など法律の専門家に相談をして、損害賠償の請求を検討してみてもいいかもしれません。

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