「犬のフンが自宅の前の道路に放置される嫌がらせを受けてる」
「敷地内・自宅の塀や電柱に散歩中の犬が尿をかけている・片付けない」
こんな経験ありませんか?
犬のフンや尿で、自宅や自宅周辺を汚された場合、飼い主に対して責任を追及できるのでしょうか。
また、警察・市役所に相談すれば、動いてくれるのでしょうか。
この記事では、このような、犬のフンや尿によるトラブルについて、分かりやすく解説していきたいと思います。
犬のフンと法律|放置する行為は犯罪になる?
①軽犯罪法違反
犬のフンを道路や公園に放置する行為は、軽犯罪法に違反し、犯罪になります。
軽犯罪法第1条第27号には、次のように定められています。
<第1条第27号>
「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」は、「これを拘留又は科料に処する。」
犬のフンを道路や公園に放置されると、周辺住民は不快な思いをします。
このような行為をすれば、拘留又は科料に処せられる可能性がありますので、むやみに犬のフンを放置する行為はやめましょう。
②廃棄物処理法違反(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
犬のフンを道路や公園に放置する行為は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」にも違反し、犯罪になります。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律とは、一般的には「廃棄物処理法」と呼ばれる法律です。
この記事でもこの法律のことを「廃棄物処理法」と呼びます。
「廃棄物」に犬のフンは含まれる
まず、廃棄物処理法は、「廃棄物」について、次のように定義しています。
<第2条第1項>
「廃棄物」とは、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの」をいう。
この定義から分かるように、犬のフンは「廃棄物」に該当することになります。
廃棄物をみだりに捨てる行為は犯罪
そして、次のように廃棄物処理法は、廃棄物をみだりに捨てた場合には、刑罰を科すことを定めています。
<第16条>
「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。」<第25条第1項第14号>
「これに違反した場合は、5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金に処する。」
したがって、犬のフンを道路や公園などにみだりに放置すれば、5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
③条例違反
実際のところ、犬の散歩中に、犬のフンを道路や公園に一度放置したくらいでは、さきほど解説した軽犯罪法や廃棄物処理法には違反しにくいのが現実です。
そこで、現実的に抵触するものとして、各自治体が定める条例というものがあります。
この記事では、大阪府泉佐野市の条例を例にあげます。
大阪府泉佐野市の「泉佐野市環境美化推進条例」には、犬のフンを放置した場合には、「1万円の過料に処する」ことが定められています。
実際に、2013年11月15日、泉佐野市において飼い犬のフンを放置した飼い主に対して、泉佐野市はこの条例に基づき、5000円の過料を徴収しました。
飼い犬のフンの放置により、飼い主に過料を徴収したのは、これが初めてであったことから、話題になりました。
条例は、各自治体によって内容が異なりますので、これを機に、一度自分の住んでいる自治体の条例を確認してみるのもいいでしょう。
嫌がらせがひどい場合、民事上の損害賠償責任を追及できる?
飼い主に責任追及できる可能性もあるが、損害の証明が困難
自宅の玄関先や庭、壁などに、犬のフンや尿をされた場合、嫌がらせの程度によっては民事上の損害賠償責任を犬の飼い主に対して追及できる可能性があります。
もっとも、損害賠償請求は、請求する側が「損害の発生」を具体的に証明しなければなりませんので、犬のフンや尿を放置されたことによって生じた損害の証明は、なかなか難しいものになると思われます。
フンや尿を放置される頻度が多く、悪臭なども限度を超える場合には、弁護士に相談してみることをオススメします。
飼い主に損害賠償責任が認められた裁判例
実際に、犬のフンを放置したとして、飼い主に損害賠償責任が認められた裁判例を1つ紹介します。
<京都地判平成3年1月24日>
事案|臭い
原告らは、被告から建物の一部を借りて、被告の家族と同じ建物に居住していました。
被告の家族は子犬を飼っていたのですが、その子犬のフンを中庭に放置したままで、しばしば「悪臭」が放っていました。
原告らは何度も苦情を申し入れていましたが、改善されないため、原告らは子犬の飼い主である被告に対し、慰謝料を請求しました。
(なお、原告は子犬の吠え声についても、騒音被害を被ったとして合わせて慰謝料の請求をしていますが、今回はこの点を省きます。)
判決
裁判所は、飼い犬のフンの悪臭による近隣住民に対する生活利益の侵害について、「健全な社会通念に照らして、侵害の程度が一般人の社会生活上の受忍限度を超える場合に違法となる」としました。
その上で、本件の被告である子犬の飼い主は、子犬のフンの放置による悪臭や、ハエの発生の解消に対して、真摯に努力しなかったとして、原告らの肉体的・精神的損害を認めました。
結論としては、被告は原告らに対し、各10万円の損害賠償を支払うことを認めました。
この裁判例から分かるように、飼い主に損害賠償責任が認められるか否かは、悪臭などが、「社会通念上の受忍限度を超えるか否か」が判断基準になるといえます。
そして、損害の証明がなかなか難しいことから、損害賠償の額は10万円~30万円くらいが相場と考えられます。
警察に通報・相談したら動いてくれる?
「敷地内の庭・塀に犬のフン」で警察に相談した場合
敷地内の庭や塀などでの犬のフンの放置について、警察に相談をしても、「当事者同士で話し合って、解決をしてください。」と言われるケースが多いようです。
なぜなら、刑罰を科すほどのものではないことが多いからです。
この記事のはじめに解説したとおり、犬のフンの放置は、軽犯罪法、廃棄物処理法、条例、に違反する行為です。
しかし、次のとおり、これらの法律に違反するとして、刑罰を科されることは、なかなかありません。
軽犯罪法違反には該当しにくい
軽犯罪法に違反するといえるためには、「公共の利益に反して」犬のフンの放置が行われる必要があります。公共の利益に反するほどのフンの放置行為は、よっぽどのことです。
単に散歩中の犬がフンや尿をして、それを放置したくらいでは、「公共の利益に反して」とまでは評価されないことが多いようです。
したがって、警察は、犬のフンの放置について相談を受けたとしても、軽犯罪法違反として取り扱うことは少ない状況です。
廃棄物処理法違反には該当しにくい
廃棄物処理法に違反するといえるためには、犬のフンの放置行為が、「みだりに捨てる」と評価される必要があります。
まず、そもそもフンの「放置行為」を「捨てる」といえるのかが問題とされます。
そして、仮に「捨てる」といえるとしても「みだりに」捨てたとまでいえるケースはなかなかありません。
たとえば、犬のフンや尿を、道路や公園に大量にばらまいたような場合には、「みだりに捨てた」といえそうですが、単に犬の散歩中にフンや尿を放置したくらいでは、「みだりに捨てた」とは評価しにくいようです。
したがって、警察は、犬のフンの放置について相談を受けたとしても、廃棄物処理法違反として取り扱うことは少ない状況です。
条例がない自治体もある
犬のフンの放置行為について、条例で罰金を定めている自治体もあります。このような自治体であれば、罰金は刑罰ですから、警察に相談すれば動いてくれるケースもあります。
しかし、犬のフンの放置行為について条例でなんら定めていない自治体も存在します。また、たとえ条例で定めていたとしても、刑罰までは定めていない自治体もあります。
このような自治体の場合は、警察にいくら相談をしても、取り扱ってくれることは難しいでしょう。
犬のフンを片付けない事に対して市役所は動いてくれる?
啓発看板の無料配布
市役所によっては、犬のフンや尿の放置に対する啓発看板を無料で配布してくれる市役所もあります。
たとえば、神奈川県にある茅ケ崎市が、無料で配布している啓発看板には、次のように書かれています。
『犬のフンや尿はきれいに始末しましょう!!犬のフンの放置は、「きれいな茅ケ崎条例」違反により、2万円以下の罰金が科されます。』
自宅の道路の前に犬のフンが放置されることが多い場合には、市役所に相談してみて、このような啓発看板を配布しているのか、訪ねてみる事は可能かもしれません。
市役所の「衛生課」が対応してくれることが多いようです。
イエローチョーク作戦の効果
市役所によっては、犬のフンの放置行為に対する対策を導入している市役所もあります。
たとえば、先ほども例にあげた、神奈川県にある茅ケ崎市では、「イエローチョーク作戦」という対策をとっています。
「イエローチョーク作戦」とは、道路などに放置されている犬のフンの周囲を、黄色のチョークで囲うことで、飼い主に警告するという取り組みです。犬のフンの放置を減らす目的で行われている対策です。
具体的には、放置されているフンの周囲に黄色のチョークで丸を付け、発見日時を書き、フンは片付けずに、1週間様子を見るというものです。
これは、市と住民が協力し合って行われます。黄色のチョークは、市役所に行けば配布してもらえるようになっています。
このように、市役所によっては犬のフンをすぐには片付けない場合もあります。犬のフンの放置で困った場合には、市役所に相談してみると、何らかの対策をとってくれる可能性があります。
犬のフンや尿のトラブル対策|巻き込まれないためにはどうすれば?
犬のフンの啓発看板を立てる
先ほど解説したように、市役所によっては、犬のフンや尿の啓発看板を無料で配布している場合があります。そのため、市役所に問い合わせてみて、啓発看板をもらい、自宅の前など、犬のフンが放置されやすい場所の近くに立てておくという対策が考えられます。
市役所で啓発看板の配布を行っていない場合には、ご自身で看板を作成してみるといいでしょう。
防犯カメラを設置する
防犯カメラを設置するという対策も考えられます。
犬がフンや尿をしたとしても、防犯カメラが設置されていれば、飼い主は始末をする可能性が高まります。
実際に録画されていなくても、ダミーの防犯カメラを設置しているだけで、効果はあると思います。
犬が嫌がるニオイの薬剤をまく
犬には嫌いなニオイがあります。そのため、犬が嫌がるニオイの薬剤を、自宅の周辺にまいていれば、そもそも犬が近づかないので、そこでフンや尿をすることも減ります。
この犬が嫌がるニオイの薬剤は、ホームセンターや百円ショップなどで簡単に手に入れることができます。専門的な薬剤なので、害を被ることはありません。
ただし、犬も性質や種類が様々ですので、絶対的に効果があるとは言い切れません。
犬のフンや尿の放置でお困りの場合は、一度試してみてもいいかもしれません。
犬よけ機を設置して撃退
犬よけ機を設置することで、そもそも犬を近づけさせないという撃退対策も考えられます。
犬よけ機は、超音波を出すことで犬を避けさせるというものです。ただし、これも、犬によっては嫌に感じなかったり、聞きすぎて超音波に慣れてしまっている場合もありますので、絶対的に効果があるとは言い切れません。
また、子どもや若い人であれば、人間にも聞き取れる音なので、不快に感じる場合もあるかもしれません。したがって、犬よけ機での対策を取る場合には、これらのことも考慮する必要があります。
まとめ
犬のフンや尿の放置は、軽犯罪法、廃棄物処理法、条例に違反する可能性があり、場合によっては刑罰が科せられます。
犬のフンや尿の始末は、飼い主の責任として当然行うべきことです。
これを放置して、他人に迷惑を被らせた場合には、損害賠償責任が問われることもあります。
犬のフンや尿の放置で困った場合には、まずは市役所に相談し、限度が超える場合には、弁護士に相談してみるのもいいでしょう。