「誰かが逮捕された」というニュースは毎日のように目にしますが、逮捕にどのような種類があり、どのような目的で逮捕するのかよく知らないという方は多いのではないでしょうか。
この記事では、逮捕について知っておきたい基本的な知識をわかりやすく解説いたします。
逮捕とは何?なぜ逮捕する?
逮捕の定義
逮捕とは、「被疑者の身体を物理的、強制的に拘束し留置施設に連行し、そこに留め置くこと」をいいます。
全ての人には基本的人権がありますので、身柄を拘束して行動の自由を奪うことは本来であれば許されません。
しかし、犯罪を犯したと疑われる人(被疑者といいます。)が逃亡したり証拠を隠滅することを防止しつつ操作を遂行するための手段として、一定の場合に被疑者の進退を拘束することが法律上認められています。これが逮捕です。
逮捕後の流れ
逮捕されると、警察署の中にある留置場などの施設に身柄を拘束されてしまいます。捜査機関は逮捕中に取り調べを行い、被疑者を起訴して裁判にかけるか、起訴せずに釈放するかを判断します。逮捕されてから起訴されるまでの期間は最長で23日間です。
逮捕の流れについては、下記で詳しくご説明していますので、こちらをご覧ください。
逮捕の目的
逮捕の目的は、被疑者が逃亡したり証拠を隠滅することを防止し、捜査機関が捜査を遂行することにあります。
犯罪の疑いをかけられた人は、捜査や刑罰を逃れるためにどこかに逃げてしまったり、犯罪の証拠となる物を隠したり、共犯者と口裏合わせを行う可能性があります。
逃亡や証拠の隠滅が行われると捜査機関による捜査に支障が生じ、犯罪の嫌疑を解明することが困難になるおそれがあります。そのような事態を防ぐために行われるのが逮捕です。
逮捕は人の移動や行動の自由を奪う重大な権利成約を伴いますので、本来の目的以外で逮捕が行われることがないように慎重に配慮することが求められます。
たとえば逃亡や証拠隠滅のおそれがないにもかかわらず、被疑者を取り調べるために逮捕をしたり、被疑者が再び罪を犯すことを防止するために逮捕を行うことはあってはならないとされています。
逮捕されると悪人になるのか?
ニュースを見ていると「逮捕された」イコール「悪いことをした」と決めつけてしまうかもしれません。しかし、これは明らかな誤りです。
逮捕された人は、裁判で有罪判決が出されるまでは「無罪である」という推定のもとで取り扱わなければいけないとされています。
逮捕や取り調べが犯罪が行われたかどうかを確認するために行われる以上、有罪判決が確定するまでは逮捕された人を「犯人」と扱うことはできないのです。したがって、逮捕に伴う権利や利益の制約は必要最低限に留められなければいけません。
このことを、「推定無罪の原則」あるいは「疑わしきは被告人の利益に」と言うこともあります。
この原則は、裁判官が判決を出すときにも適用されます。刑事訴訟法336条には「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。」と規定されています。
つまり、裁判官は「被告人が犯罪を行った」と言い切れるときにだけ有罪判決を出すことができ、「被告人が犯罪を行ったという疑いが強い」「被告人が犯罪を行ったかもしれないが、他の誰かが犯人かもしれない」というときには無罪判決を出さなければいけません。
これは、罪のない人を裁くこと、すなわち「冤罪」が起こることは絶対に避けなければいけないからです。
逮捕の種類
続いて逮捕の種類について解説いたします。
逮捕には、通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。
通常逮捕
通常逮捕とは、捜査機関が、裁判官から事前に発付を受けた逮捕状に基づいて逮捕することをいいます。通常逮捕は3つの逮捕の中の「原則」型であり、他の2つはあくまで例外であると位置づけられています。
憲法33条には「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となってゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」という規定があります。
つまり「原則として、裁判官が発布した令状がなければ逮捕されることはない」ということは、憲法により国民に与えられた基本的な権利だということになります。
逮捕状は検察官または警察官の請求に基づいて裁判所から発布されます。逮捕状の請求が行われる際には、犯罪を行ったと疑われる者の氏名、年齢、職業、住所に加え、罪名、疑いがかけられている事実の要旨、逮捕が必要な理由などを記載した請求書が提出されます。
逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由と逮捕の必要性があることを審査し、これらの要件を充たしているときに初めて逮捕状を発布します。
逮捕の理由とは「その者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があることをいい、逮捕の必要性とは逃亡や証拠隠滅のおそれがあることをいいます。
逮捕状を発布する際にこのような厳重な手続が必要とされるのは、すでに述べたとおり、逮捕は重大な権利侵害を伴う行為なので、理由や必要性がないのに逮捕が行われることはあってはならないからです。
現行犯逮捕|一般人でも逮捕できる!
刑事訴訟法では、現に罪を行った者、現に罪を行い終わった者、そして罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者であれば、誰でも、逮捕状がなくても逮捕することができると規定しています。これが現行犯逮捕です。
たとえば、万引き(窃盗)が行われたことを目撃した店員がその場で犯人を捕まえるようなケースです。
現行犯逮捕が例外として認められるのは、犯行が行われたことを目撃したという事情から、「その者が犯罪を行った」という事実が明白であり、正当な理由なく逮捕が行われるおそれが小さいことに加え、緊急の必要性が認められることが理由であるとされています。
緊急逮捕
逮捕の3つ目の類型は緊急逮捕です。緊急逮捕とは、その者が犯罪を行ったという疑いが強く、逮捕状を取っている余裕がない緊急の必要性がある場合に行われる逮捕です。
緊急逮捕が行われるのは、たとえば、刺殺による遺体が発見された15分後に、警察官が現場のすぐ近くで血の付いた包丁を持った人物を目撃したような場合です。
緊急逮捕を行うことができるのは検察官、検察事務官、警察官だけで、現行犯逮捕と異なり一般人が行うことはできません。
まとめ
逮捕の目的や種類についてご理解いただけたでしょうか。
「誰かが逮捕された」というニュースを見ると、ついつい「この人が犯人なのか」と思ってしまいがちですが、「逮捕」イコール「犯人」ではないことがお分かりいただけたかと思います。
この記事を読んで逮捕について正確な知識を身につけ、日々目にするニュースを正しく理解していただければ幸いです。