アカハラを訴える!アカハラの裁判例や訴訟の流れを解説

ハラスメント

アカデミックハラスメント(アカハラ)の被害に遭ってしまった場合には、とにかく一人で悩まずに、専門家に事情を話して相談することが大切です。

特に悪質なアカハラの被害に遭ったケースでは、慰謝料などの損害賠償を求めて加害者側を訴えるという選択肢も検討すべきです。

その場合は、弁護士に相談して、実際に加害者側を訴えるための戦略を立てましょう。

この記事では、アカハラに関する裁判例や、アカハラで加害者側を訴えた場合の訴訟の流れなどについて詳しく解説します。

アカハラにより精神的苦痛を負った場合、加害者を訴えることは可能?

アカデミックハラスメント(アカハラ)とは、大学・大学院などにおける力関係の差(上司と部下、指導教員と学生など)を利用して、下の立場にある者の学習・教育・研究活動を妨害することをいいます。

こうしたアカハラ行為の被害に遭って精神的苦痛を負った場合、加害者側を訴えることはできるのでしょうか。

不法行為に基づく損害賠償請求ができる

アカハラ行為を働いた加害者は、被害者に対する不法行為責任を負担します(民法709条)。

したがって、アカハラ行為により精神的損害を被ったり、キャリア選択などに実害が生じたりした場合には、被害者は加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。

大学・大学院側の使用者責任などを追及することも可能

さらに、加害者である上司や指導教員などを雇用している大学に対しても、使用者責任を追及することができます(民法715条1項)。

使用者責任は、被用者を雇用することにより利益を受けている使用者は、被用者の故意または過失により生じた損失についても責任を負うべきという考え方によって設けられた制度です。

アカハラの被害者としては、加害者である上司や指導教員本人と併せて、大学・大学院を共同被告として訴訟を提起すると良いでしょう。

賠償金を二重取りできるわけではありませんが、もし加害者本人に資力がなかった場合でも、大学・大学院側から賠償金を支払ってもらうことが可能になります。

なお、アカハラの舞台が国立大学である場合には、民法上の使用者責任ではなく、国家賠償法に基づく国家賠償責任が適用されることになります(国家賠償法1条1項)。

アカハラで損害賠償が認められた裁判例を紹介

実際にアカハラの被害者が加害者や大学・大学院側を訴え、勝訴して損害賠償が認められた裁判例を2つ紹介します。

神戸地裁姫路支部平成29年11月27日判決

国立大学の大学院生が、教授からアカハラ的な言動を受けたことで、大学および教授に対して国家賠償法・不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

判決では、教授が学生に対して教育・研究活動の一環として指導や注意などをすることは、教授の裁量の範囲内であることを認めつつも、実際に行われた言動の文脈や背景事情などを考慮した上で、裁量権の逸脱・濫用があったかどうかを具体的に判断すべきとしました。

そのうえで、

・他のゼミ生との差別的取り扱い
・原告の人格を傷つけるような言動
・原告の研究活動を妨害する行為

などが、不法行為に相当するアカハラ行為であると認定されました。

さらに、教授を雇用する大学についても、

・教授が以前にも問題を起こしていたことを知っていたにもかかわらず、教授に対する個別の研修・教育が行われていなかったこと
・原告に対して、ハラスメント対策に関する手続きの流れを明確に説明しなかったこと

などを理由として、安全配慮義務違反に基づく国家賠償責任を認めました。

大阪地裁平成30年4月25日判決

私立大学の大学院生が、指導教員である教授によるアカハラ行為によって退学に追い込まれたことを理由として、大学および教授に対して、使用者責任・不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

判決では、主に以下の2点について、教授の大学院生に対する行為の違法性を認め、教授の不法行為責任と大学の使用者責任を認めました。

・大学院生がTAの交通費支給などを求めて労働組合活動をしていたところ、教授が指導教員としての優越的立場を利用して、大学院生に対して不当に労働組合からの脱退を執拗に迫ったこと
・大学院生が修士論文の研究のために、約1年の予定で遠隔地滞在型のフィールドワークを行っていたところ、教授が指導教員としての権限を濫用して1か月程度でフィールドワークを一方的に中止させ、修士論文の完成を不可能にしたこと

さらに、大学院生が大学に対して、教授のハラスメント行為について相談していたにもかかわらず、数か月にわたって調査を行わずに放置したことなどについても違法性が認められました。

アカハラを訴える場合に準備すべきことは?

アカハラの被害者が加害者側を訴え、損害賠償を勝ち取るためには、事前の周到な準備が必要不可欠です。

以下では、アカハラで加害者側を訴える際に準備すべきことについて解説します。

弁護士に相談して訴訟戦略を立てる

アカハラの事実を訴訟で争うとなると、訴訟手続きについての専門的知識が必要になります。
訴訟を専門に取り扱っているのは弁護士ですので、まずは弁護士に相談して訴訟戦略を立てましょう。

弁護士に相談をすれば、

・加害者側に対してどのような請求が可能なのか
・どのような事実を立証すれば良いのか
・事実を立証するために必要な証拠は何か、どうやって集めれば良いか

など、訴訟に必要となる準備全般についてアドバイスを受けることができます。

アカハラの加害者を訴えることを検討する場合には、まずは弁護士に相談することが第一歩です。

アカハラの証拠を十分にそろえる

裁判では、アカハラの被害者である原告側が、アカハラ行為があった事実を証拠により立証しなければなりません。そのため、裁判で勝てるだけの証拠を十分にそろえる必要があります。

たとえば、アカハラに該当する会話やメールのやり取りの記録が残っていれば、アカハラの事実を立証するための強力な証拠になります。

それ以外にも、具体的な事情に応じて利用できる証拠があるかもしれませんので、弁護士とよく相談しながら、計画的に証拠を集めていきましょう。

アカハラを訴える場合の裁判の流れを解説

アカハラで加害者側を実際に訴える場合の、裁判手続きの流れについて見ていきましょう。

裁判所に訴状・準備書面を提出

アカハラで加害者側を訴えるには、まずは裁判所に対して訴状を提出する必要があります(民事訴訟法133条1項)。

訴状には、

・誰を被告として訴えるか(加害者、大学、その両方など)
・求める判決(請求の趣旨)
・請求の趣旨を基礎づける事実(請求の原因)

などを記載することが必要です(同条2項)。

訴状が裁判所により受理されると、裁判所は被告に対して訴状を発送し、さらに第1回口頭弁論期日を指定して両当事者に連絡します。

その際、「準備書面」と呼ばれる書面の提出期限も指定されるので、それに間に合うように原告側は準備書面を作成し、裁判所に対して提出します。

準備書面とは、当事者が裁判において主張する内容をまとめた書面のことです。

準備書面では、訴状よりもさらに詳しく、アカハラの被害を受けた経緯などを記載することになります。

口頭弁論期日で主張・立証を展開

第1回口頭弁論期日以降、各口頭弁論期日において、原告・被告双方による主張立証活動が展開されます。

実務上は、両当事者が準備書面や証拠などを裁判所に提出したうえで、それらを裁判所が精査する方法によって証拠調べが行われています。

そして、ある程度証拠調べが進んだ段階で、「人証」の証拠調べが行われます。

人証の証拠調べでは、アカハラの関係者を実際に法廷の場に呼んで証言してもらい、裁判所・原告・被告からそれぞれ質問を行います。

そして、関係者の生の声を聴いた後で、裁判所は事件に関する最終的な心証を形成して、判決の内容を決めることになります。

なお、口頭弁論期日はおおむね1か月に1度程度開催されることが多く、裁判所が最終的な心証を形成するまでは何度でも開催され、回数の制限はありません。

裁判所により和解が試みられることがある

訴訟の場では、裁判所は両当事者に対して和解を勧告することができるとされています(民事訴訟法89条)。

裁判所が提示する和解案に両当事者が納得すれば、裁判上の和解が成立して、判決に至ることなく裁判は終了します。

裁判所による和解勧告は、訴訟の早い段階で行われることもあれば、判決が近い最終段階で行われる場合もあります。

和解勧告を受け入れるかどうかは当事者の自由です。

しかし、和解勧告を断り続けた場合には判決が言い渡されることになります。

そのため、和解に関するやり取りの中から裁判所の心証を探り、和解を受け入れるメリットがあるかどうかを慎重に検討することが大切です。

判決

訴訟の途中で和解に至らなかった場合には、最終的に裁判所により判決が言い渡されます。

判決において被害者側の言い分が認められ、その判決が確定した場合には、確定判決の正本を債務名義として、強制執行の手続きを取ることができます。

アカハラを訴える場合には弁護士に相談を

アカハラの被害に遭ってしまい、加害者を訴えることを検討している場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめいたします。

弁護士は、実際の訴訟の場面を想定しつつ、アカハラ被害者としてどのような準備をすれば良いのかについて適切なアドバイスをしてくれます。

また、加害者側や裁判所とのやり取りについても、被害者に代わって弁護士が行ってくれるため、被害者の精神的な負担は大きく軽減されます。

訴訟に向けた周到な準備をするため、また少しでもアカハラで受けた精神的な傷を楽にするためにも、お早めに弁護士にご相談ください。

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