上記のコラムで「鳥への餌やり」によって、周辺の環境を著しく悪くしている人がいれば、その人に対して、都道府県知事はその餌やりをやめるよう指導できることを解説しました。
ただ、上記コラムで解説した「動物*」の定義は、純粋な「野生状態下の動物を除くもの」という見解があります。
*『動物愛護法25条1項の「動物」』
つまり「人が飼っていない鳩やカラスへの餌やりは全然OK」、つまり規制対象外だという見解があります。
仮に、これをA説としましょう。
野生の鳥への餌やりは指導を受けないのか?
A説によれば、街角や公園の鳩やカラスに餌をあげる行為は、動物愛護法の規制対象外となります。
果たして、これは正しい見解でしょうか?
まずは条文をよく読んで見ましょう。
同法25条1項の「動物」の内容は、同法10条1項における定義が準用されています。
同法10条1項は次のとおりです。
「動物(哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するものに限り、畜産農業に係るもの及び試験研究用又は生物学的製剤の製造の用その他政令で定める用途に供するために飼養し、又は保管しているものを除く。以下この節から第4節までにおいて同じ。)」
つまり、哺乳類・鳥類・爬虫類のうち「畜産農業目的や実験目的で飼育・保管しているものを除く」としか規定しておらず、人が飼育・保管している動物に限るとも、野生動物を除くとも定めてはいません。
そして「以下この節から第4節までにおいて同じ」と定めているので、この10条1項における動物の定義が、第4節の25条にも適用されるのです。
このように、10条1項の定義からは、法25条1項の「動物」から純粋な野生状態下の動物を除くというA説の結論は出てきません。つまり10条はA説の理由にはなりません。
衆議院調査局の見解
そうすると、A説を支持するには、もともと動物愛護法の「動物」には、野生動物が含まれていないのだと理解するしかありません。
ここまで考えると、A説は、衆議院調査局の次の意見に影響されているらしいと推測がつきます。
同局は、動物愛護法の目的を定めた第1条について、次の見解を明らかにしています。
「ここでいう『動物』とは、条文上は明らかにされていないが、人とのかかわりがあるものが想定されていることから、純粋な野生状態の下にある動物はふくまれないものとされている」(※)
※衆議院調査局環境調査室「動物の愛護及び管理をめぐる現状と課題」(平成24年8月)6頁
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/shiryo/kankyou_201208_dobutsuaigo.pdf/$File/kankyou_201208_dobutsuaigo.pdf
このように、そもそも動物愛護法にいう「動物」一般から、野生動物を全部駆逐してしまうならば、A説が正しいことになります。
しかし、衆議院調査局は、同じ報告書の中で、次のようにも述べています。
「一義的には飼養動物全般が本法の対象である。ただし、個々の条文が対象とする動物の範囲はその目的や措置内容等によって異なっており、動物一般であったり犬猫限定であったりするなど、条文により適用される動物とされない動物が混在する」※同4頁
このように、当該条文の目的によって、その文言が表す内容が異なる場合があることは、法解釈上、別段に珍しいことではありません。
そして、25条1項は、動物の保護を目的とするのではなく、周辺住民の被害を防止することを目的とする規定ですから、人間に飼われていない動物への餌やり行為をも規制対象としなければ法目的は達成できません。
そもそも25条1項は、従来、多頭飼育による「動物の飼養、保管」だけを対象としていたところ、2019年の法改正により、必ずしも飼養を前提としない「給餌」と「給水」による被害も加えられたという経緯があります。このことからもA説は成り立たないことは明らかです。
まとめ
どうしてもA説を維持して、法25条1項の「動物」には、人間とのかかわりのない純粋な野生動物を外したいということであれば、「人間から餌をもらっている鳩やカラスは、既に人間とかかわりを持ってしまったので、純粋な野生動物ではないから、規制対象となるのだ」と理解することになるでしょう。
それならそれで、ありうる解釈です。
どちらにしても、公園のカラスや鳩への餌やり行為は『動物愛護法の規制対象である』という結論には変わり有りません。