特別背任罪ってどんな犯罪?簡単に解説!

特別背任罪刑事事件

テレビや新聞で「特別背任罪の疑いで会社の経営者が逮捕された」というニュースを目にしたことがある方は多いと思います。最近では日産の会長だったカルロス・ゴーン氏が特別背任罪の容疑をかけられ逮捕されたことが大きく報道されました。

ところで、「特別背任罪」とはどのような法律なのかご存知でしょうか。あまり馴染みがない、あるいはどんな犯罪なのかよく知らないという方も多いのではないかと思います。

そこでこの記事では特別背任罪についてわかりやすく簡単に解説いたします。

特別背任罪とは

背任罪とは

特別背任罪は犯罪類型の一つで、刑法で定められている「背任罪」の特別法とされています。そこで前提として刑法の背任罪について簡単に解説いたします。

背任罪とは、「他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図りまたは本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えること」をいうとされています。

これに違反すると5年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはその両方が科されます。

少しわかりづらいかもしれませんので、次のような事案を考えてみてください。

A社の社員であるBはC社との契約手続を任されていました。Bは、C社の担当者であるDから「あなたに100万円を渡すので、その見返りにC社に有利な条件で契約を成立させてほしい」と内密に打診され、それを承諾しました。その結果、C社と不利な条件で契約を結ぶことになったA社には1000万円の損害が発生しました。

このような場合に、Bに特別背任罪が成立する可能性があります。

A社の社員であるBは、A社との信任関係に基づいてA社の利益になるように行動する義務があったにもかかわらず、自分やC社の利益を優先してその信任関係を侵害し、A社に財産上の損害を与えてしまいました。この点に背任罪の本質があるとされています。

特別背任罪とは背任罪の特別法

では、「特別背任罪は背任罪の特別法である」というのはどのような意味なのでしょうか。

背任罪の主体は「他人のためにその事務を処理する者」であればよく、組織における立場や役職は考慮されていません。

他方の特別背任罪は、組織の幹部など組織運営に重要な役割を果たしている者が背任を行ったときに、通常の背任罪よりも重い罪を科すものです。これが背任罪との違いです。

特別背任罪の背景には「会社の役員などは一般の社員よりも組織運営において重要な役割を果たしており、重い責任が背負っているのだから、信任関係を侵害したときにはより重い処罰を科すべきだ」という考え方があります。

特別背任罪は刑法ではなく、会社法、保険業法、医療業法などに規定があります。この記事では株式会社の役員を想定した会社法上の特別背任罪を前提に解説いたします。

横領罪との違いは?

背任罪と似た犯罪に、刑法に定められている「横領罪」があります。

横領罪とは、自己の占有する他人の物を不正に取得して利益を得る犯罪です。

業務上、自分が管理することになっている他人の物を横領した場合には、「業務上横領罪」となります。横領罪の刑罰は5年以下の懲役、業務上横領罪は10年以下の懲役とされています。

横領罪と背任罪の区別については判例や学説でも議論があり、実際には判断が微妙なケースもあります。

両者の大きな違いとして、横領罪は「物」、すなわちお金や物品を客体としていますが、背任罪では客体は限定されていない点があります。

また、この後に説明するように背任罪では「図利加害目的」が要件とされていますが、横領罪は「他人のものを自分のものと同じように利用したり処分しようとする意思」があればよいとされています。

特別背任罪の構成要件

特別背任罪の構成要件

では、どのような要件を満たしたときに特別背任罪が成立するのでしょうか。

特別背任罪は会社法の960条1項に条文があります。それによると、特別背任罪の構成要件(犯罪が成立するための要件)は次の4つです。

  • (1)行為の主体
  • (2)図利加害目的
  • (3)任務違背行為
  • (4)財産上の損害

一つ一つ見ていきましょう。

要件1:行為の主体

特別背任罪は、組織運営に重要な役割を果たしている者が背任を行ったときに特別に重い罪を負わせるものだと説明いたしました。したがって、特別背任罪は誰にでも成立するのではなく、主体が限定されてます。ニュースなどで特別背任罪で逮捕されたと報道されるのが会社の経営者ばかりなのはそのためです。
会社法によると、特別背任罪の主体となるのは次の8つに該当する者です。

  • (1)発起人
  • (2)設立時取締役又は設立時監査役
  • (3)取締役、会計参与、監査役又は執行役
  • (4)仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
  • (5)一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
  • (6)支配人
  • (7)事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
  • (8)検査役

要件2:図利加害目的

特別背任罪が成立するためには、自己もしくは第三者の利益を図る目的、または本人に損害を加える目的が必要とされています。これを「図利加害目的(とりかがいもくてき)」といいます。

他の要件を全て満たしていても、図利加害目的がなければ特別背任罪は成立しません。図利加害目的がない場合とは、たとえば、相手に利益をもたらしたり自分の会社に損害をもたらすこと自体を認識していなかったような場合です。

要件3:任務違背行為

任務に背く行為をすることが要件となります。これを「任務違背行為(にんむいはいこうい)」といいます。

銀行の役員が資産のない会社に担保を付けずにお金を貸したり、社外秘の情報を第三者に漏らしてしまうような行為がこれに該当します。

任務違背行為に該当するかを一概に決めることは困難なため、個々の事案に応じて、任務が発生する根拠や社会通念に従って判断されます。

要件4:財産上の損害

特別背任罪が成立するためには自分の会社に財産上の損害が生じることが必要です。図利加害目的をもって任務違背行為を行ったが結果的に財産上の損害が発生しなかった場合、特別背任罪は未遂となります。

特別背任罪は親告罪?

犯罪の中には、被害者の告訴がなければ犯罪自体が成立しないものがあります。このような犯罪を「親告罪」といいます。たとえば刑法で規定されている名誉棄損罪は侮辱罪は、被害者本人が望んでいないにもかかわらず加害者を処罰することはふさわしくないと考えられているため、親告罪とされています。

しかし、特別背任罪は親告罪ではありません。したがって被害者である会社により告訴がなくても犯罪は成立しますし、第三者の告発により捜査機関の捜査が開始することもあります。

ただし、被害者との示談が成立していることを理由に特別背任罪による不起訴処分となることはありえます。

この場合は刑罰は科されませんし、前科も付きません。弁護士に早めに被害者との示談交渉を依頼するメリットは大きいでしょう。

特別背任罪の刑罰

特別背任罪の罰則は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方とされています。通常の背任罪の罰則が「5年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはその両方」でしたので、背任罪と比べて非常に重い罰則が科されることがわかります。

特別背任罪で有罪となると確実に実刑となってしまうのでしょうか。

執行猶予が付くかどうかは、懲役3年程度が目安とされています。したがって、もし有罪となっても犯情が軽微だと判断されれば執行猶予判決となる可能性はありますが、重大な犯罪だと判断されれば一発で実刑となる可能性もあります。

刑罰の重さを判断する際に考慮される事情は、犯罪の態様、被害額、反省の意思の有無、被害者との示談の有無など様々です。

特別背任罪の事例

ここまでの説明を読んでも「よくわからない」「イメージが湧かない」という方も多いかと思います。そこで、特別背任罪が成立した代表的な事件をご紹介いたします。

大王製紙事件

製紙会社である大王製紙では、創業者であり会長である井川意高氏が子会社から100億円を超える金銭を不正に引き出していたとして、特別背任罪に問われました。これらの金銭はマカオやシンガポールで個人的なカジノの掛け金として浪費されていました。
大王製紙は井川氏を刑事告発し、東京地検特捜部は取締役会の承認決議がないまま子会社から指定の銀行口座に振り込ませて損害を与えた特別背任罪の容疑で2012年に井川を逮捕しました。
東京地方裁判所は井川氏に対して懲役4年の判決を言い渡し、これが確定しました。

日産事件

日産の会長だったカルロス・ゴーン氏は、自身の役員報酬額を少なくするために長年にわたり実際の報酬額よりも少ない額を有価証券報告書に記載していたとして、代表取締役のグレッグ・ケリーとともに2018年に東京地検特捜部により逮捕されました。これによりゴーン氏は日産の会長と代表取締役から解任されました。

刑は確定しておらず、ゴーン氏は2019年10月現在、無罪を主張しています。

最後に

いかがでしょうか。特別背任罪についてご理解いただけたでしょうか。

特別背任罪は主体が会社の経営者など一部の人に限定されていることや、経済取引の中で行われるいわゆる「経済犯罪」であること、そしてそもそも発生する件数が少ないことから、他の犯罪と比べてイメージが湧きづらいかもしれません。

カルロス・ゴーン氏の裁判では、有価証券報告書への虚偽記載がゴーン氏の指示によるものだったのか、有価証券報告書の記載が虚偽だと言う認識がゴーン氏にあったのか、といった点が争点になると考えられます。特別背任罪の成立が認められるか、今後の報道や裁判の行方に注目してみてはいかがでしょうか。

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