いじめに関連する法律である、「いじめ防止対策推進法」について解説していきます。
いじめ防止対策推進法は、平成25年6月21日に成立し、9月28日に施行された法律です。
いじめ問題を解決するため、いじめの対応と防止について学校や行政などの責務を規定しています。
いじめ防止対策推進法ができた背景
では、なぜこの法律ができたのでしょうか。
きっかけとなったのは、2011年に起きた「大津市中2いじめ自殺事件」です。
いじめによって男子生徒が自殺した事件で、学校側の情報の隠蔽・第三者による調査の遅れ・いじめ対策における連携不足・加害者や関係者への処分など、
多くの問題が浮き彫りとなり、世間でも大きな注目を集めました。
この事件の反省から、いじめ防止対策推進法が制定されたのです。
いじめ防止対策推進法のポイント
- いじめの定義
- いじめ防止基本方針
- 学校(学校の設置者)が講ずべき基本的施策・措置
- 重大事態への対処
①いじめの定義
一つ目に、いじめの定義です。
この法律によって、いじめの定義が決められました。
その結果、いじめは直接的なものだけではなくインターネットを通じて行われる「ネットいじめ」も含まれることや、
程度によらずいじめられている本人がいじめだと感じれば「いじめ」にあたることなどが決められました。
②いじめ防止基本方針
二つ目に、いじめ防止の基本方針です。
いじめ防止対策推進法によって、国や地方公共団体、学校はいじめ対策をすることが義務づけられるようになりました。
また、いじめ対策のために関係者を集めた協議会を立ち上げることもできるようになりました。
③学校(学校の設置者)が講ずべき基本的施策・措置
三つ目に、学校または学校の設置者が講ずべき基本的施策やいじめの措置についてです。
まず、基本的施策としては、道徳教育の充実や相談体制の整備など、画面右側にあるような項目を行うよう定められました。
簡単にまとめると、いじめが起きないように事前に対策や研究を行うこと、そしていじめが起きた時に早期発見や相談をしやすい環境を整えることが求められたということです。
次に、いじめへの措置としては、事実確認を行い結果をきちんと報告することや、関係者に対する対処を規定することなどが定められました。
被害者への支援はもちろん、加害者への対処として警察との連携や、懲戒といった処罰が設けられたことも注目する点です。
④重大事態への対処
四つ目に、重大事態への対処です。
重大事態とは、「いじめられた子供の心身・財産に重大な被害が生じた疑いがあるとき」、また「相当期間学校を余儀なく欠席している疑いがあるとき」を指します。
大まかに、酷いいじめが起きているとき、長期間学校を休んでいるときと考えていいでしょう。
この重大事態が起きた時は速やかにいじめの調査を行うこと、被害者に情報を提供することなどが定められました。
また、地方公共団体といった第三者への報告も必須とされ、場合によっては第三者が再調査や必要な措置を講ずることができるようにもなっています。
これにより、いじめの隠蔽などが行われにくい体制づくりを目指されました。
いじめ防止対策推進法の3つの問題点
問題点①いじめの定義の範囲・認識の齟齬
まず、いじめの定義の範囲と認識の齟齬についてです。
いじめ防止対策推進法では、いじめの定義が「被害者がいじめだと感じればいじめになる」と決められました。
しかし、そうはいっても、意図せず少しぶつかってしまっただけというような些細なことでも、被害者がいじめだと言えばいじめになってしまうのかなど、定義が広すぎるがゆえに問題も生じています。
また、明確な基準や境界線がないことで、被害者がいじめを訴えても客観的にはいじめではないとして学校側に真摯に取り合ってもらえないケースや、被害者が「大丈夫」だと隠してしまうことでいじめを見抜けないケースもあるようです。
問題点②いじめ対策に向けた対応と認識が不十分
次に、いじめ対策に向けた対応と認識の強化です。
実は、いじめ防止対策推進法が制定されたといっても、学校などの現場にはあまり浸透していないのが事実です。
その理由として、教師や教育委員がいじめ対策への時間を十分に取れていないことが挙げられます。
特に教師においては、長時間労働やサービス残業の慢性化など、過重労働を強いられていることを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
現在の業務に多くの時間が取られてしまい、新しく制定されたいじめ防止対策推進法を勉強する時間が取れない、いじめを発見しても個別的に対応する時間が十分に取れない、そういった課題があるのです。
そのため、この法律をさらに活用していくためには、現場でのいじめへの認識の強化や労働環境の改善といったことも必要となっています。
問題点③不適切な対応をしたときの学校側の処分がない
最後に、不適切な対応をしたときの学校側の処分です。
今のいじめ防止対策推進法には、学校や教育委員会への処罰は規定されていません。
そのため、十分な対応をしなくても処罰がないからと、学校によっていじめに対する取り組みに格差がでたり、いじめを知っていたにもかかわらず対応しなかったということが起こり得てしまう状態になってしまっています。
また、いじめは必ずしも子供間のみで起きているというわけではなく、教師が加担しているケースも多くあります。
そのような場合には誰がどのようにして責任を取るのか、といった問題点も残っています。
まとめ
以上、いじめ防止対策推進法についてお話してきました。
ここまでお話してきたように、いじめ防止対策推進法は良い影響をもたらした部分もありますが、いまだに課題も残っています。
今後、いじめを少なくしていくためにも、国民全体で改善すべき点に声をあげていくことが大切だといえるでしょう。