大学・大学院などにおいてアカデミックハラスメント(アカハラ)の被害に遭ってしまった場合、大きな精神的ダメージを受けてしまうことでしょう。
そんな時は一人で悩まずに、専門家に相談することが大切です。
この記事では、アカハラの被害に遭ってしまった方が利用できる相談窓口や、相談までの準備、また相談後の流れなどについて解説します。
こんなときはアカハラかも|よくあるアカハラ相談事例
アカデミックハラスメント(アカハラ)とは、大学の構成員同士の間の力関係の差を悪用して、大学での学習・教育・研究活動を妨害する行為をいいます。
アカハラには実にさまざまなパターンがありますが、その中でもよくあるアカハラの相談事例を紹介します。以下のような被害に心当たりのある方は、早めに専門家に相談すべきです。
①研究室で指導教員から無視される
大学・大学院の教員は、学生の興味・関心に応じて適切な指導を行うことを職務としています。
しかし中には、学生を好き嫌いで選り好みし、嫌いな学生に対しては一切指導を行わない指導教員が存在することも事実です。
もし指導教員に指導を求めても無視されるなどの扱いを受けている場合は、アカハラを疑うべきでしょう。
②単位や卒業などを認めることと引き換えに仕事を手伝わされる
大学・大学院の研究室では、学生が雑務をこなす役割を与えられていることも少なくありません。
学生が任意で手伝う分には問題ありませんが、指導教員によっては、自分の仕事を手伝わなければ単位や卒業を認めないという横暴な要求を学生に課すケースも見受けられます。
そもそも講義の単位や卒業は、学生の学習・研究の達成度を評価して認められるものです。
したがって、指導教員のための雑務をこなしたかどうかという観点から、単位や卒業を認めるかどうかを判断するのは、完全に筋違いであるといえます。
指導教員の側もそのことは理解しているはずですが、指導教員と学生という力関係の差を悪用して、学生に対して無用な雑用を強いるケースが残念ながら存在します。
このようなケースも、アカハラの典型的な事例といえるでしょう。
③学生が書いた論文を指導教員が書いたことにされてしまう
学生が苦労して作成した論文を、指導教員を第一著者として学会や雑誌に発表されてしまうケースがあります。
論文の著者や序列を決めるにあたっては国際的な基準が存在し、原則的には国際基準に則る必要があります。
それにもかかわらず、学生が反論しにくいことを利用して、自分がほとんど手を動かしていないのに第一著者に名を連ね、学生の功績を横取りしようとする行為は、傲慢・横暴としか言いようがありません。
このような行為も、アカハラに該当する問題行動といえます。
④指導教員に暴言を吐かれる
指導教員が学生に対して理不尽な暴言を吐く行為は、立場の差を悪用して学生を精神的に追い詰める、きわめて卑劣な行為です。
このような行為は、会社などの職場で行われたとすれば、「パワハラ」に該当します。
これに対して、大学・大学院という研究教育機関の場で行われた場合は、「アカハラ」に該当する行為となります。
⑤指導教員にプライベートで会わないかとしつこく誘われる
指導教員と学生の関係性は、あくまでも教育・研究機関の中での指導する側・される側の関係というに過ぎません。
しかしながら、指導教員が気に入った学生のプライベートに過度に立ち入ろうとするケースも存在します。
学生から見て指導教員は目上の立場であり、また自分の研究がうまくいくかどうかが指導教員の指導にかかっているというケースもあるため、指導教員の要求を拒否しにくい状況にあることも事実です。
このような状況を悪用して、学生にプライベートでの面会を強要したりする行為は、卑劣なアカハラ行為というほかないでしょう。
アカハラの相談はどこに行けばよい?相談先を紹介
アカハラの被害に遭ってしまった場合、一人で抱え込むことなく、しかるべき相談先に助けを求めることが大切です。
以下では、アカハラの被害を相談できる相談先を紹介します。
①大学・大学院の窓口
一番手軽に相談できるのは、大学や大学院のアカハラ相談窓口です。
最近では、アカハラに対する問題意識が各大学・大学院で高まっているため、アカハラ専門の相談窓口が設けられていることも多くなっています。
アカハラ相談窓口では、基本的に学生の目線に寄り添った対応をしてくれるため、まずは一度相談してみると良いでしょう。
②民間のNPO(NAAHなど)
しかし、大学や大学院のアカハラ相談窓口に相談したとしても、身内の問題として満足な対応をしてもらえないケースも残念ながら存在します。
その場合は、民間のNPOに助けを求める手段も考えられます。
民間のNPOでもっとも有名なのは「アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)」です。
(参考)http://www.naah.jp/
NAAHの事務局は大阪市に存在していますが、アカハラ被害者向けの電話相談・メール相談を受け付けているので、遠方の人でも相談に応じてもらうことができます。
なお、NAAHでは匿名相談も可能となっています。
弁護士
悪質なアカハラに遭ってしまったケースでは、大学・大学院や加害者である指導教員に対して、損害賠償請求をすることも検討すべきです。
その場合には、弁護士に相談しましょう。
弁護士は、アカハラの事実を裏付ける証拠をそろえるために必要なアドバイスをしてくれるほか、アカハラに基づく損害賠償請求について、専門的な見地から全般的にサポートしてくれます。
初回相談を無料としているケースも多いため、気軽に一度弁護士に相談してみると良いでしょう。
アカハラの相談をする際に準備した方が良いこととは?
各種相談先に対してアカハラの相談をする場合には、ある程度の準備をしてから臨んだ方が、実のある相談ができる可能性が高まります。
以下では、アカハラの相談をする際に準備しておいた方が良いことについて解説します。
①アカハラの被害についての時系列を整理しておく
アカハラの相談をする際には、実際にどのような経緯で被害を受けているのかを説明しなければなりません。
その際、事実関係がよく伝わるように、これまでのアカハラ被害を時系列順に整理してから相談に臨むと良いでしょう。
たとえばアカハラ被害を時系列順にまとめたメモを作って、相談先に提出して読んでもらう方法も有効です。
②アカハラの証拠を集める
相談の時点で完璧に準備する必要はありませんが、アカハラに関する証拠をある程度揃えておくと、その後の対応方針などが立てやすくなります。
たとえば指導教員から送られてきたメールなどのうち、アカハラ的な言動が含まれているものがあれば、プリントアウトして持っていくと良いでしょう。
特にアカハラ被害を弁護士に相談する場合は、その後の損害賠償請求に備えて、証拠を準備することがいっそう重要になります。
どのような証拠が必要かについては弁護士からアドバイスを受けられるので、相談後に順次集めていけばOKです。
アカハラの相談をした後の流れとは?
各相談先にアカハラの相談をした後、実際にどのようなアクションを取ってくれるのか、どのような流れでアカハラ問題が解決されていくのかについて、気になる方は多いと思います。
以下では、アカハラの相談をした後の流れについて、相談先ごとに解説します。
大学の窓口に相談した場合
まずは、大学の窓口にアカハラ被害を相談した場合の、その後の流れについて解説します。
加害者に対する事情聴取
相談の場で被害者側の言い分を聞いた後は、アカハラに関する管轄部署が主導して、事実関係の調査が行われます。
事実関係の調査の中でも重要になるのが、加害者に対する事情聴取です。
事情聴取においては、加害者に対して、アカハラ行為を働いた事実はあるのか、被害者がアカハラ被害を訴えていることについてどのように考えるかなどについて質問が行われます。
加害者に対する処分の決定
加害者に対する事情聴取が完了したら、大学・大学院側は、被害者側と加害者側の言い分や、その他の事実関係などを総合的に考慮して、加害者に対する処分を決定します。
よほど悪質なケースであれば、加害者である指導教員に対して、異動や解雇などの処分が下る可能性は否定できません。
しかしほとんどのケースでは、口頭での注意など軽微な処分に終わるのが通常です。
民間のNPOに相談した場合
次に、NAAHなどの民間のNPOに相談した場合の、その後の流れについて解説します。
被害者に対する継続的なケアが行われる
民間のNPOは、基本的には被害者に対するケアを行うことが業務の中心になります。
たとえば継続的に被害者から被害状況についての話を聞いて、精神的な負担が軽くなるように慰めたり、大学・大学院側に対して法的なアクションを起こすための相談先を適宜紹介したりといったことが考えられます。
NPO名義で大学・大学院側に対する抗議文が提出される
民間のNPOが大学・大学院側に対して何らかのアクションを起こすとすれば、NPO名義での抗議文の提出などが考えられます。
しかし、NPO側としても、正式な抗議文を出すに至るためには、きちんとした事実の調査を行う必要があります。
そのため、NPOから大学・大学院側に対する抗議文の提出が行われるのは、被害者側できちんと証拠をそろえられる場合で、かつアカハラの程度が悪質なケースに限られるでしょう。
弁護士に相談した場合
最後に、アカハラ被害を弁護士に相談した場合の、その後の流れについて解説します。
大学・大学院、加害者側に対する内容証明郵便の送付
弁護士に相談した場合は、最終的には大学・大学院および加害者である指導教員に対して損害賠償請求を行うことを視野に入れて、その後の対応を進めていくことになります。
その第一段階としては、大学・大学院や加害者である指導教員に対して、警告の意味を込めた内容証明郵便を送付することが考えられます。
内容証明郵便は、郵便局がその内容を証明してくれる郵便のことで、裁判などにおいて証拠として用いることができます。
内容証明郵便の内容としては、おおむね以下の内容を記載することになるでしょう。
・被害者が指導教員からアカハラ被害を受けていること
・指導教員はアカハラ行為を直ちにやめるべきこと
・加害者である指導教員に対して厳しい処分を求めること
・アカハラ被害が止まない場合には、損害賠償請求などの法的措置に訴える可能性があること
など
内容証明郵便の送付後は、大学・大学院側の反応を見て、その後の対応を決めることになります。
必要に応じて損害賠償請求などを行う
内容証明郵便に対して、大学・大学院側が満足な対応を取ってくれない場合には、損害賠償請求を検討する段階に移ります。
損害賠償請求は、基本的には訴訟を提起して裁判の場で争う方法によることになります。
その際、アカハラの事実を立証するに足る証拠が必要となるため、弁護士と協力しながら計画的に証拠を収集しましょう。
訴訟の手続きについては、弁護士に任せておけば、訴状や準備書面などの提出書類の作成や、訴訟戦略の検討に至るまで、被害者を全般的にサポートしてくれます。
まとめ
アカハラの被害に遭った場合には、一人で抱え込まずに、専門家に対して被害の事実を打ち明けて相談することが大切です。
アカハラの相談先としては、大学や大学院の窓口・民間のNPO・弁護士などが考えられます。
特に悪質なアカハラの被害に遭ったケース、加害者側に対して損害賠償を請求したいケースなどでは、弁護士に相談することをおすすめいたします。
弁護士は、アカハラ被害者の心情に寄り添いながら、加害者側に対してどのようなアクションを取ることができるかを、被害者とともに真摯に検討します。
アカハラ被害にお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。