「親にゲームを壊された!」
「嫁に、趣味の鉄道模型を捨てられた!断捨離された!」
「鬼滅の刃の禰豆子(かまどねずこ)のフィギュアを婚約者に捨てられた!」
など、家族に自分の物を壊されたり、勝手に捨てられた経験はありませんか?
家族にとってはガラクタでも、自分にとっては大切な物ってありますよね。
では、自分の物を家族に壊されたり、捨てられたりした場合、罪に問えるのでしょうか。
また、訴えたら損害賠償を請求できるのでしょうか。
この記事では、家族に自分の物を壊された場合や、勝手に捨てられた場合の法律問題について、分かりやすく解説していきます。
夫の趣味・フィギュア・鉄道模型などを勝手に捨てたりすることは違法なの?
家族の私物を壊したり、勝手に捨てたりすることが違法となるか否かは、その物が「特有財産」にあたるか「共有財産」にあたるかによって異なってきます。
法律上の「特有財産」を勝手に捨てた場合
特有財産とは、結婚していても夫婦のどちらか一方の固有の所有となる物のことをいいます。
たとえば、夫が結婚前から持っていた物、妻が親からもらった物、結婚後であっても、相手とは全く無関係に個人的な趣味として自分のために購入した物、などが「特有財産」として挙げられます。
この特有財産は、夫も妻もそれぞれ固有の所有権を有しています。夫の特有財産に対して、妻はなんら権利を有しませんし、妻の特有財産に対して、夫はなんら権利を有しません。
したがって、特有財産を勝手に捨てたり、壊したりする権利はないことになりますので、相手に無断で勝手に捨てたり、壊したりすれば、「違法」となります。
法律上の「共有財産」を勝手に捨てた場合
共有財産とは、夫婦の婚姻関係が始まってから「協力して得た財産」のことをいいます。「夫の物」や「妻の物」と決めなかった物は、共有財産となります。
たとえば、結婚してから一緒に買った家具や食器、電化製品、子どもの物、などが「共有財産」として挙げられます。
「共有財産」については、夫にも妻にも権利があるので、相手に無断で勝手に捨ててしまっても、必ず違法となるわけではありません。
家族の物を壊したり、勝手に捨てたりした場合の刑事上の責任は?
器物損壊罪が成立する?
「共有財産」にあたらない家族の私物を勝手に壊したり、捨てたりした場合には、刑法第261条の「器物損壊罪」が成立する可能性があります。
第261条は、次のように規定しています。
<第261条 器物損壊罪>
「前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」
器物損壊罪は、他人の物を損壊したときに成立するのは条文のとおりですが、他人の物を「捨てた場合」にも、ここにいう「損壊」にあたるとして器物損壊罪が成立する可能性があります(最高裁判決昭和32年4月4日)。
また、物自体を壊したり捨てたりしなくても、その物に「尿をかけたり唾をかけたりした場合」には、損壊したと評価され、器物損壊罪が成立することもあります。
実際に、食器に尿をかけた行為について、器物損壊罪が成立するとした裁判例が存在します(大判明治42年4月16日判決)。
食器自体を壊していなくても、人の尿がかかった食器を再度使うことには抵抗がありますから、その食器に食べ物をのせることは二度とできなくなったという意味で、その食器の本来の用途を失わせたとして「損壊」にあたるとされています。
器物損壊罪が成立しない場合がある?
器物損壊罪が成立するためには、その物がある程度「価値のある物」である必要があります。
そのため、古くなって既に破れている洋服を勝手に捨てた場合や、ゴミのようなガラクタを勝手に捨てた場合には、その物には価値がないと評価され、器物損壊罪は成立しない可能性が高いです。
告訴しないと罪に問えない?
「親告罪」とは、被害者による告訴がないと、罪に問えない犯罪を指します。
刑法第264条は、次のように規定しています。
<第264条>
「第261条(器物損壊罪)の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」
この条文のとおり、器物損壊罪は親告罪にあたります。そのため、被害者による告訴がなければ、罪に問うことができません。
家族に勝手に自分の物を捨てられ、罪に問いたい場合には、刑事告訴をする必要がありますが、たとえば「家族にプラモデルを1つ捨てられた」というだけの揉め事に、警察や検察がどこまで介入してくれるかは難しい問題となります。
家族の物を勝手に売った場合の刑事上の責任は?
次に、自分の私物を家族に勝手に捨てられた場合についても見ていきましょう。
窃盗罪や横領罪が成立する可能性がある?
「共有財産」にはあたらない家族の物を勝手に質屋に入れてお金を自分のものにしたり、フリマアプリで勝手に売ってしまった場合には、「窃盗罪」や「横領罪」が成立する可能性があります。
第235条及び第252条第1項は、次のように規定しています。
<第235条>
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」<第252条第1項>
「自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。」
窃盗罪と横領罪の違いは、その物が誰の手元にあるか、という点にあります。
たとえば、妻が夫の部屋から夫のカバンを勝手に取り出して、フリマアプリで売った場合には、そのカバンは夫の手元にあったため、「窃盗罪」が成立する可能性があります。
一方、妻が夫に頼まれてカバンを保管している状態で、そのカバンを勝手にフリマアプリで売った場合には、そのカバンは妻の手元にあったため、「横領罪」が成立する可能性があります。
家族間なので「親族相盗例」により刑が免除される?
解説したとおり、家族の物であっても勝手に売った場合には、形式的に窃盗罪や横領罪が成立する可能性があります。
もっとも刑法は、第244条第1項により親族間の犯罪に関する特例というものを設け、一定の犯罪については、「親族間の犯罪を免除」することを要求しています。
第244条第1項は、次のように規定しています。
<第244条第1項 親族間の犯罪に関する特例>
「配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪(窃盗罪)又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。」
第244条第1項により、家族間で窃盗罪を犯したとしても、その刑は免除されることになります。
この特例は、「免除できる」ではなく、「免除する」と規定されていますので、任意的ではなく必要的に刑が免除されることになります。
したがって、形式的には窃盗罪が成立するとしても、家族間の窃盗罪で処罰を受けることは不可能といえます。
また、この「親族間の犯罪に関する特例」は、第255条において横領罪にも準用されています。
<第255条>
「第244条(親族間の犯罪に関する特例)の規定は、この章の罪(横領罪)について準用する。」
したがって、親族間の横領罪についても、刑は必要的に免除されますので、親族間の横領罪で処罰を受けることもありません。
参考:内縁の配偶者の場合にも刑は免除される?
裁判例(最高裁判決平成18年8月30日)は、刑法第244条の親族間の犯罪に関する特例は、「内縁の配偶者」には適用又は類推適用されないとしました。
理由は、第244条の親族間の犯罪に関する特例は、刑の必要的免除を定める規定なので、免除を受ける者の範囲は明確に定める必要がある、という点にあります。
したがって、同居している内縁の配偶者の物を勝手に売った場合には、窃盗罪や横領罪により処罰される可能性があります。
家族に自分の物を壊されたり、勝手に捨てられたりした場合に、損害賠償を請求できる?
家族に対しても、損害賠償請求はできる
家族に自分の物を壊されたり、勝手に捨てられたりした場合、売られた場合には、民事上の責任として不法行為に基づく損害賠償責任を追及できる可能性があります。
<民法第709条>
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
家族に自分の物を壊された場合には、第709条に基づいて、その物の「修理代金」の賠償請求、勝手に捨てられた場合には、その物が無くなったことによって被った損害の賠償請求ができることになります。
なお、損害賠償の額は、その物を買った時の額ではなく「捨てられた時の額」で算定することになります。
そのため、古くから使っている物であれば価値が低下している可能性が高く、損害賠償請求が認められたとしても、少額になってしまうと予想されます。
また、自分にとっては宝物でとても大切な物であったとしても、「客観的にみて無価値な物」であれば、損害賠償請求が認められる可能性は低くなります。
家族間での損害賠償請求は意味がない?
解説したとおり、家族間であっても物を壊したり勝手に捨てたりした場合は、形式的には不法行為となり、損害賠償を請求できる可能性があります。
しかし、家族の家計は1つとなっている場合、家族間で損害賠償請求をしたとしても無駄に裁判費用がかかるだけで、あまり意味がありません。
子どもがおもちゃを親に捨てられたとして、親に対して損害賠償請求をしても、そもそもそのおもちゃ自体、親が買った物であることが多く、また子どもが「未成年者」であれば親が法定代理人となるので、裁判をすることは現実的に難しいでしょう。
したがって、夫婦が離婚するような場合には、財産を分けることになるので損害賠償請求をすることに意味はありますが、このような場合でなければ、家族間で損害賠償請求をすることには意味がなく、家族関係が悪化するだけなので避けることが無難です。
自分の物を勝手に売られた場合、取り返すことはできる?
妻Bが夫Aのカバンを勝手にフリマアプリで売ってしまい、そのカバンをCが購入したという事例で考えてみましょう。
この時、夫Aは購入者Cに対し、カバンを返せといえるのでしょうか。
占有回収の訴え
民法第200条第2項は、次のように規定しています。
<第200条第2項>
「占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。
ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。」
少し分かりにくいかもしれませんが、原則として、夫AはCに対してはカバンを返せといえないと規定しています。
もっとも、ただし書きにより購入者Cが「そのカバンは盗品であるということを知っていた時」には、夫AはCに対してカバンを返せといえることになります。
盗品の回復請求
第200条によれば、夫AはCが「カバンは盗品である」と知っていた場合にしか取り返せないことになります。
しかし、民法は第193条において、盗品についての例外を設けており、「盗まれた時から2年間」であればCが盗まれた物であることを知らなかったとしても、夫AはCに対してカバンを返せといえることが規定されています。
<第193条>
「占有物が盗品であるときは、被害者は盗難の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。」
もっとも、Cが盗品であることを知らずに購入したのなら、Cが可哀想なので、夫AはCに対して代金を支払った上でカバンを返してもらうことになります(第194条)。
まとめ
鉄道模型や鬼滅の刃の禰豆子のフィギュアなど捨てられるケースが今も絶えません。
もちろん、家族の物を壊したり、捨てたり、売ったりした場合にも、犯罪が成立する可能性はあります。また、損害賠償を請求できる可能性もあります。
しかし、家族間のトラブルについては警察が介入することは難しいことが多いです。そのため、刑法は「親告罪」や「親族間の犯罪の特例」を設けています。また、損害賠償請求についても意味がない場合がほとんどです。
家族間のトラブルは、家族内で解決するように心がけましょう。