「○○社長の報酬不正問題、立件は困難 東京地検特捜部」とニュース報道で読んだけど、「立件」ってそもそも何ですか?
今回は、「立件」という言葉の意味と合わせて、「立件」とはどのような時に使われる言葉なのか解説していきます。
立件とは
立件とは、「刑事事件において、検察官が公訴を提起するに足る要件が具備していると判断して、事案に対応する措置をとること」(大辞泉・小学館)です。
但し、ニュースなどでも日常的によく使われている「立件」という言葉は、実は法律用語ではないとご存知でしたか?
「立件」とは一体どんなことをさす言葉なのか、立件の定義を探っていきます。
立件は法律用語でない
「立件」という言葉は、実は法律用語としては存在せず、刑事訴訟法上の手続にも「立件する」という手続きは存在しません。
あくまでもマスコミがよく使う言葉として存在しているに過ぎず、一般的に使われることも滅多にない言葉です。
そのため、実は、明確な定義がなされているわけでもありません。
立件の定義
立件の定義の仕方は、実は最初に解説した意味以外にも、国語辞書によってそれぞれ異なります。
いくつか例を見てみましょう。
- 要件が備わっているとして、裁判所や検察庁などに事件が受理されること。(広辞苑・岩波書店)
- 刑事事件で、検察官が公訴を提起する要件を備えていると判断すること。(明鏡国語辞典・大修館)
- 公訴を提起する前提条件または要件が成立すること。(大辞林・三省堂)
- 刑事事件で、検察官が公訴を提起する要件が備わっていることを立証すること。(国語辞典・旺文社)
このように辞書によって様々な定義があるなかで、多くの国語辞書の共通項として見られるのが、
「検察官が公訴を提起できる要件が備わっていると判断し、事案に対応する措置をとること。」
ということです。
前述のように「立件」には明確な定義がありませんので、この国語辞書の共通項を「立件の定義」として考えるのが良いでしょう。
立件の報道のされ方
ではニュースなどのテレビ報道のなかで、「立件」という言葉はどのように使われるのでしょうか?
明確な定義がないからこそ、その使われ方はケースによって様々です。
立件は、テレビ報道では多様な意味で使われる!!
「立件」という言葉が法律用語ではなく定義がないという理由から、テレビ報道では多様な意味で用いられます。
主な使われ方は以下の2つです。
「立件」を「警察が逮捕」の意味で使われるケース
テレビ報道では、「警察が○○の捜査をしている」という場合や 「警察が捜査した内容が検察に送致された」の時にも「立件」という言葉が使用されます。
具体例を見ていきましょう。
「○○ペイ、県内初立件 詐欺疑いで逮捕」
これは、スマートフォン決済サービスを不正に使用して、商品を購入したという理由で被疑者が逮捕されたというニュースの見出しです。
記事では、「県警サイバー犯罪対策課など」が「逮捕した。」とし、「○○ペイの不正使用での立件は(中略)県内で初めて。」とあります。
この場合、「警察による逮捕」という意味で「立件」という言葉が使用されているのがわかります。
「立件」を「検察が起訴」の意味で使われるケース
実務上、「検察が起訴」するという意味で「立件」するという言葉が使われる事が多いです。
こちらも具体例を見ていきましょう。
「あおり運転立件へ現場で実況見分 脇見か対向車線で衝突事故」
参考URL:https://www.sankei.com/affairs/news/190831/afr1908310020-n1.html
これは、茨城県守谷市の常磐自動車道で発生した、あおり運転殴打事件における実況見分中の追突事故に関する記事です。
あおり運転殴打事件における被疑者はすでに逮捕されている状態で、「県警は道交法違反より罰則の重い刑法の暴行容疑適用も視野に入れ、立件を目指している。」という記述をしていることから、「立件」が「検察による起訴」という意味で使用されていることがわかります。
逮捕から立件(検察による起訴)までの流れ
立件という言葉を「検察による起訴」という意味で用いる場合、逮捕から立件までの流れは以下の通りです。
- ①逮捕された後は、警察署での取り調べが行われます。
話を聞かれる以外に、刑事事件の現場での実況見分、指紋、DNA採取なども行われます。
- ②逮捕後48時間以内に身柄を検察に送られ、更に取り調べが行われます。
- ③検察官は身柄を受け取ってから24時間以内(かつ逮捕から72時間以内)に裁判所へ勾留請求をするか、身柄を釈放するか、直ちに起訴するかを決定します。
勾留請求を受けた裁判官が勾留を決定すると、勾留請求の日から10日間の身体拘束を受けます。
さらに捜査の必要性がある場合、検察官は10日間を上限とした延長を請求することができます。裁判官が延長を認めた場合、勾留期限は勾留請求の日から20日間が上限となります。
逮捕の日からは23日間ということです。
検察官は、この23日間の間に起訴するか、不起訴として釈放するかを決めなくてはなりません。
罪を犯し逮捕されてから「立件」されるまでの詳しい流れは、こちらの記事をご覧ください。
立件見送りのケースとは?
これまで逮捕されてから立件されるまでの流れを確認しました。
では立件しないこと(不起訴)になるケースとは、どのような場合があるのでしょうか?
起訴するための法律上の条件を欠く場合
被疑者がすでに死亡している場合、公訴時効が成立している場合など、起訴するための法律上の条件を欠く場合は、起訴できないので立件しないこと(不起訴)となります。
罪とならない場合
被疑事実は認められるものの、犯罪とならない場合にも起訴できないので立件しないこと(不起訴)となります。
14歳に満たない場合、心神喪失者である場合などがこれに当たります。
嫌疑がない場合
警察や検察の捜査機関によって、事件に関する捜査を行なった結果、被疑者に対する犯罪の疑いが晴れた場合にも、立件しないこと(不起訴)となります。
嫌疑不十分な場合
捜査機関によって捜査が行われた結果、被疑者に対する犯罪の疑いは完全には晴れないものの、裁判において有罪であるという証明をするための証拠が不足していると判断された場合にも、立件しないこと(不起訴)となります。
起訴猶予の場合
犯罪事実は一応認められ、起訴すれば有罪である可能性は高いものの、犯人の性格や年齢・境遇、犯罪の軽重や情状、犯罪後の情況などによって、訴追を必要としないと判断された場合にも、立件しないこと(不起訴)となります。
起訴猶予となるための明確な基準はないため、検察官の裁量による判断となります。
起訴猶予を理由とした不起訴処分について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
示談成立の場合
加害者が被害者に対して、反省の意を示し、示談金を支払うことによって示談が成立した場合は、起訴猶予として立件しないこと(不起訴)となる可能性が高くなります。
示談について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
まとめ
今回は「立件」の意味と、「立件」がどのような時に使われるのかを流れとともに解説いたしました。
ニュースなどで日常的によく耳にする「立件」という言葉が法律用語ではないという事実に、驚いた方も多いのではないでしょうか?
正しい言葉の意味を知ることで、日々ニュースなどで報道される事件の理解も深まります。